いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

盛り下げ役の願い。

ふと思い出した大学生の頃の記憶。

卒業式の10日くらい前。ちょうど今の時期だ。

ゼミの同期に(当時のアパートの側の)焼き鳥屋に呼び出された。

 

「呼び出された」と書いてしまえば、いかにも欠かせないメンバーのように感じられる。

あいつがいないと始まらない、感。

あいつがいた方が楽しくなる、感。

そんなものは一切ないけれど(あったら初期メンバーのはず)、わざわざ焼き鳥屋に足を運ぶはめになったのだから「呼び出された」ことに違いはない。

 

理由はどうあれ間違いなく「呼び出された」僕は喜んで焼き鳥屋を目指した。

親の金で住んでいたアパートから自分の金で済むアパート(家賃は2万円以上安くなった)へと引越しを済ませていたので、目的地は少し遠かったが。

同期が僕を誘ってくれたのは、この時もまだ焼き鳥屋の近くに住んでいると思っていたからだ。引っ越したと知っていたら誘ってくれた?

いざ会ってしまえば楽しく過ごせる仲であっても、いざ会うまでの互いの状況は一切知らない。優先順位の低い友達の宿命。

この時期にLINEが普及していたら、ゼミの同期でグループを作っていただろう。そのグループに加入していたら今でも繋がっていたのだろうか?

 

「久しぶり」席に案内をされ、先に着いていた何人かの同期に声をかけた。

「おぉ、久しぶり」笑顔で声をかけてくれる彼や彼女は久しぶりの再会だったのだろうか。僕だけが久しぶりで他の同期たちは一昨日ぶりとか?

 

それぞれに近況を報告しあう。

就職に伴い引っ越しをしたとか、実家に戻ったとか、卒業旅行はどこに行ったとか。

移動の話が多かった。

僕の話も引っ越しについてだ(それしかない)。家賃が大幅に下がったこと、不動産屋の怠慢でトラブルが続いたこと。

水漏れ、エアコンとボイラーの故障、前の住人が契約をしていたCSチューナーの放置。あとはベランダに小さい蜂の巣があった。

スケールが小さい割に悪くはないエピソードだったけれど、一番輝いていたのはある同期の「元彼と卒業旅行に行った」話だった。

旅行の前に別れることになったけど、行き先が海外(たしかヨーロッパ)だったからさすがにキャンセルがもったいなくて…という内容。

細かいことは一切記憶に残っていないけれど、一番印象的だったのは間違いなくこの話。

ディティールは大きなスケールの前(瞬間的には)で無力なものになる。

いつの世も最大瞬間風速を記録するのは派手でわかりやすいものだ。

 

ひと通りの近況報告が終わったあたりで遅れていたメンバーが到着した。見慣れない顔を1人連れてきていた。サークルの友達だという。

 

唐揚げにレモンをかけるかどうか、ケーキから剥がしたセロファンのクリームをなめるかどうか、友達の友達をどう思うか。

価値観は人それぞれだ。

今目の前にいる見慣れないこの人は、同期にとっての友達。ここを尊重していれば、どう思ってもいいはずだ。

僕にとって友達の友達は、友達…じゃない。

赤の他人。

むしろ赤の他人よりも厄介だ。

 

僕から見れば、同期の友達。

彼から見れば、友達のゼミの同期。

↑あれ?サークルの同期の友達じゃない!(同期と僕は友達ではなかった可能性が急浮上)

 

僕と同期の友達との距離は開いていて、同期とその友達はとても近い。ピタリと横並び。

とても難しい。

これはあれだ、友達の彼女も交えて飯を食う感じだ。

 

僕と友達、友達と彼女。

それぞれに関係性がある。

友達が僕に見せる顔、彼女に見せる顔はそれぞれ違う。違って当然。

 

いつものように冗談を言い合った時に「彼女だけは笑っていない」みたいな状況になってしまった。

同期が連れてきた友達は男だけど。

 

冗談を言い合う僕と同期。

その様子を見る彼の反応は、想像していたよりもかなり悪かった。

ノリの良さやオラオラ感は同期の友達の方が強い。「一回飲んだら友達、三回飲んだらマブダチ」みたいなインファイト・コミュニケーションの彼が示す反応が鈍い。

あれ?

あれ…え、あれ…?

何かが噛み合わない…。気がついた時には既に修正が難しい状態になっていた。

 

同期の友達と打ち解けられる可能性が一番高かった「いつもの絡み」が不発に終わる。これが噛み合わなければ今日はもう噛み合わない。

リズムを崩した僕は、同席していた他の参加者との噛み合わせまで悪くしてしまった。

誰とも噛み合わなくなった僕は、強烈な居心地の悪さに支配されていく。自分が勝手に感じ始めた居心地の悪さに悶え苦しむ。

 

「ごめん、帰るわ」二次会のカラオケに移動しよう、という話が出たところで僕は離脱を告げた。

店を出た後、1人だけ駅に向かう。

せっかく誘ってもらえたのに(呼び出された、なんて強がり言うのはもう限界)、楽しく会話の輪に加わる事ができていたのは、最初の数本を食べ終わるまでだった。チーズだとかミニトマトだとか、変わり種を注文してキャッキャできる序盤だけ。

中盤以降誰とも噛み合わなくなった僕は、明らかに場を盛り下げた。

 

改札に向かうエスカレーターに乗っている時、メールが届いた。参加していた内の1人からだった。

「今日はごめん。」

前代未聞、人類史上初、この村では聞がねぇ話だな。

盛り下げた人間が謝罪される異常事態。

僕が謝罪するならわかる。「気にすんなよ」と慰められるならまだわかる。

「今日はごめん」と謝られるのはわからない。

そんなメールを送らせてしまうくらい、噛み合わなくなった後の僕の様子はおかしかったのだろう。

 

卒業式の日の夜に開かれたゼミの送別会を僕は欠席した。

会は盛り上がっていただろうか?

別れが惜しい夜になっていたなら、望み通りだ。