いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

越して明ける年に備えて

日付変わって31日、今年最後のバイトを終えた。

元旦の夕方からバイトに行くことになるのだが、大晦日の休みを掴み取った時点で僕にとっての年末年始のシフトは勝利に等しい。

 

三が日全部出勤する正月が負けというのは他人の物差しでしかない。

僕にとっては年越しの瞬間に店にいないことが何よりも重要で、どうしても譲れないポイントなのだ。

 

フリーターという立場上、正月三が日は並大抵の理由では休みを申請できない。店長をはじめ正社員が昼のシフトに全て持っていかれてしまうからだ。

パートさんの主張する「家族が…親戚が…旦那の実家に…」とかに敵う理由は存在していない。

 

パワハラが社会問題として大きく取り扱われるようになる以前から、パートさんの身内を理由にした休みは無敵だった。

学生の主張するテスト云々は通用しない職場があったが(僕がお世話になってきた職場に限る)、パートさんの主張する身内云々はほぼ全て通用していた。

 

旦那の実家に挨拶行くのに10日も休みが必要ですか?

手製のイカダでエチオピア(旦那の故郷)まで行くのか?って話だ。お土産においしいコーヒー豆よろしく、と嫌味の一つも言ってやりたい。

しかし店長は言えない。お局にして年間の貢献度も高いパートなだけに、ここで強く言ってヘソを曲げられると2月3月を乗り切れない。

 

夫の転勤に伴い、娘の保育園の関係で、引っ越しをすることになりまして…戦力的には退職理由が嘘でも本当でも構わない一部のパートが一斉に辞めて行く季節。

三人寄れば文殊の知恵、三本の矢の教え。ぼくが、めになろう(スイミー)。僕は嫌だ(平手友梨奈)。

一つ一つの力は小さくとも、結束すれば大きな力になる。

 

一人一人については「あぁ、そう…。そっか、残念だね。」と一応の惜別の言葉とともに簡単に送り出せちゃう程度の貢献度の低いパートでも、三人一斉に辞めると言われたら店長お手上げ。

どうすりゃいいの?営業に支障をきたさないように朝から晩まで職場にいても店長の体は一つしかない。

 

時給換算したら正気を保てなくなる社員特有の(謎の)給与体系。思考する暇を与えないように設計された煩雑にして膨大な日々の業務。寝癖が残った頭で事務所に入ってきた店長のワイシャツは、出勤時から皺だらけになっている。

 

森から動物たちが姿を消す。枝先に実るはずの恵みがどこにも見当たらない。やせ細った大地にはひび割れが目立ち始めた。

 

ハンドクリームをこまめに塗っても、分厚く塗り込んでも、指先のひび割れが防げなくなった頃、懐かしい声が聞こえてきた。

「店長、家に豆を挽く器具ありますか?コーヒーミルってやつ。」

 

「旦那は飲む直前に挽いたほうが絶対に美味しいって言うんですけど、そういうもんなんですかね?あ、これがお土産のコーヒー豆です。なんか有名な農園のものらしくて、地元の人でもなかなか譲ってもらえないらしいんですって。」

貢献度の高いパートがエチオピアから帰ってきて、店長は少しだけ緊張の糸が切れてしまった。

 

貢献度の高さに負けず劣らずの影響力の強さ。軽やかな口先。

お土産を貰っただけで泣いた、という噂が職場全体に浸透するまでに多くの時間は必要がなかった。

 

ゆく年があれば来る年もある。

休みの日があればバイトの日もある。

元旦の16時には部屋を出てバイトに向かわなければならない。年末年始というくくりで休める時間は多くないが、年末年始らしいことを少しでもして過ごしたい。

 

年越しそばを食べて、あとはえーと…初日の出を見てから寝るとバイト前起きるのツラいかもなぁ…。初詣は毎年行ってないし、門松は飾らないしおせちも食べないし…うーん。

 

やっておきたい正月らしいことが一つもないと気がつくのに多くの時間は必要がなかった。