いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

手を取り合うには随分遠くて

父と母が結婚したのは、今から30年以上も昔の話。母が父と結婚してあげた(そんないい女じゃねぇけど、一応の気遣い)のが30年以上も昔の話、か?

 

父が定年を迎えたタイミングではしなかった。子供たちが成人したタイミングでもしなかった。

 

離婚は無しってことなんですかね? 基本的には無しってことなのでしょうか?

 

幸か不幸か、子供の立場からは2人の離婚を想像したことがない。

本人たちはどうだったんでしょうね。まぁ、知らないままで行かせてもらうけど。

 

父は結婚のタイミングで苗字を変えた。 母は一人っ子で、父は次男坊だった。

父は婿養子として母の実家に入り、渡辺から青山になった。

 

50音表の上では超がつくほどの遠距離恋愛。長崎から岩手へと嫁ぐような大移動。 嫁ぐ日の朝、父の親族一同は港までフェリーを見送りに行ったのだろうか。

 

子供の僕にとって、青山の姓を名乗ることのしんどさは、学生時代の4月にのみ訪れた。自己紹介がトップバッターになることだけは自分の苗字を恨んだ。

 

間に合わない。

考えをまとめる時間がない。

 

毎年のことでしょ、と思われるだろう。 そうなんだけど、毎年求められることが違うのだ。

 

名前、好きな教科、苦手な教科、今年の目標、部活とポジション…などなど。

 

名前以外に喋ることは担任の先生による。 クラスの雰囲気やリーダー格の人間が誰なのかなど、考慮すべき要因がとても多いなかでのトップバッターだ。

 

近藤、佐藤あたりまでは全体的にふわふわとしていて、簡潔に自己紹介するべきなのか、ここである程度キャラ付けをした方がいいのかが判明しない。

ふざけてこぼれ落ちるのか、真面目にやって最後列からのスタートになるのかが青山の段階ではわからないのだ。

 

渡辺はその点において理想的。時間は十分にある。4月の自己紹介において、出席番号の後ろの人から、と指示する先生は少ない。先生だって4月は探り探りなのだ。

言うべきことを用意する時間が十分にあるのが渡辺。どんな感じで自己紹介をすれば、目立たず虐げられずのポジションを取れるかを分析する時間も十分にある。

この時期だけは婿養子に入った父の決断を尊重できなかった。

 

間を取れなかったのか?

長崎から岩手じゃなくて、愛知とか静岡じゃ駄目だったのか?

渡辺から青山じゃなくて、橋本とか中井じゃ駄目だったのか?

 

50音表で端と端の2人だから、たとえ同じクラスになっていたとしても席替えをするまでは隣り合う可能性はほとんどない。

そんな2人が生涯の伴侶として隣り合い、手を取り合い(見たことない)共同生活を送っていると考えると(2018年10月現在)、人生の不思議さを感じずにはいられない。

 

実際には互いの実家を小一時間で行き来できるのだけど。割と近いのだけど。

 

渡辺から青山に苗字が変わる。

父にとって恥ずかしかったのか、誇らしかったのか。 どうだったんだろう?

わ→あ、へと一気に駆け抜けたことを少し誇らしく思ったのだろうか?

 

 血は争えない、という言葉がある。

父は、苗字コンプレックスを解消したくて結婚したと思われることを、不安に思っていただろうか?僕だったら結婚にあたりそこだけは不安だし、そう思われていたら恥ずかしい。

何にでも意味を持たせようとする人っているから。

 

渡辺さんの結婚相手の苗字が青山…ははーん、苗字コンプレックスを解消するための結婚ね!なんて想像されてしまう。 財産目当ての結婚に決まってる、ぐらいのテンションで言われたら、そうじゃなくたって下を向いてしまうし、耳も赤くなってしまう。

 

父と母の出会いも結婚に至る経緯を知らない。プロボーズについても、父がしたのだろう、という予想のレベル。 どうやら恋愛結婚らしい(情報源は親戚のおばさん)。

知っていることの全てを並べてみたが、この程度にしか知らないし、きっとこれ以上を知ることもない。

 

どういうわけか、2人はなんで結婚したんだろう、と思った。考えていて、互いの苗字が遠く離れていることに気がつく。

 

あ、か、さ、た、な、は、ま、や、ら、わ。

 

50音表のあ行だけを紙に横並びで書いてみた。 端と端。 遠いな、と思った。 この距離を乗り越えて結婚したと考えると、なんだかドラマチックな気がしてくる。

 

全部が思いつき。

想像上の出鱈目の物語なのに、悪くはないと思っている自分がいた。 それならそれで悪くはないよね、と。

 

父と母の顔が浮かぶ。

物語の主役がこの2人だと再確認して、なんだかあほらしくなった。自分の両親を主役に物語を想像していたなんて。

 

あ行を横並びに書いた紙を捨てることにした。つまみあげて、ふと気がつく。

 

あ、そういうことね。

 

つまみあげて端と端が近づいた紙の上では、あ・わ、の2文字は隣り合っていた。

随分と近くにいたものだ。

 

手を取り合うなんざ、わけないぜ。