いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

レクサスはすぐ来て、すぐ帰る

帰省したとき、実家のテレビを1台処分した。リビングと婆さんの部屋に1台ずつあればそれで十分らしい。

 

もったいない。別に置いときゃいいのに。

 

何も言わないのは、家を出る人がいなければ必要だったテレビだからだ。脛をかじりながら東京でダラダラダラダラとフリーターを続けている僕に発言権はない。

 

テレビは処分をするのにお金がかかる。数千円を払って、故障のないテレビを処分するのは馬鹿げている。

 

近所の人に譲るのはなんか違う。「テレビ要る?」が「お宅は買う余裕ないでしょ?」に変換されてしまうリスクを考えると得策ではない。

仮に喜んでくれるご近所さんがいたとしても、別のリスクが発生する。

「なんであの家に?だったらウチでも良かったんじゃないの?」

やはり避けるべき選択肢。

田舎の難しさここにあり、だ。

 

メルカリのアプリを起動する。メーカーとサイズをキーワードに検索をかける。ずらっと表示された商品から売れたものだけをチェックしていく。

6,000円〜35,000円だった。

高く売れているものと安く売れているものの違いはほとんどが製造年度だった。最近のものほど高額で、昔のものほど安くなる。

処分予定のテレビの裏側をチェックする。製造は2010年だった。

売れているものの中ではかなり古い。

 

ある程度情報が揃ったところで根本的な問題に気が付いた。実家の面々はメルカリのアカウントを持っていない。

両親はガラケーでアプリが使えない。ばあちゃんはらくらくフォン。実家住まい唯一のスマホ所有者である弟はメルカリを利用しておらず、今回のためにアカウントを作ることに乗り気ではない。

 

完全に停滞した空気の中、なんの気なしにツイッターを開くとタイムラインにはどんぴしゃの情報が流れてきた。

天啓ってやつ?

フォローしている中の1人が、引っ越しで不要になった家具家電はすべてジモティーで引き取ってもらった、とツイートしていたのだ。

日頃脛をかじっている手前、ここで手柄を立てねばならない。

僕は自分のスマートフォンにジモティーのアプリをダウンロードして、アカウントを取得した。

 

写真を撮り、説明文を書き、最寄り駅を設定する。

出品にあたって必要な情報は価格を残すのみ。

 

利益はいらない。

引き取りに来てもらいたい。

すぐに交渉をまとめたい。

 

価格を0円にして出品をした。

 

ものの5分。問い合わせがいくつもやってきた。

ジモティーの交渉のルールがわからないまま、とりあえず順番に返信をしていく。

「いつ頃引き取りに来られますか?」

15分後、問い合わせの受付を中止した。30件以上の問い合わせがやってきた。

 

殿様商売というか、相手の足元を見た交渉術というか。断れない下請けに無理な取引を要求するように、僕はふっかけてみた。

30人いりゃあ1人くらいはいるだろうと。

「今日中に引き取りに来られる方はいますか?」

時刻は13時を回ったところ。

 

「住所教えて下さい。ナビに入力して所要時間もすぐに連絡します。」

1人の男性から早速連絡が来た。取引実績を見ると100件を超えている。悪い相手ではなさそうだ。

すぐに片付けたかったので、住所を教えた。

 

男性からの返信を待つ間に他の人からの連絡をチェックする。

「目の悪くなってきた祖母に、どうしても大きな画面でテレビを見せてあげたいんです...」そんな事情を知ってしまうと心は揺れる。譲るのはこっちの人にしようかな…。

 

悩んだけれど、相手の変更はなしにした。最初の男性との交渉を進めたのは少し怖かったからだ。

見ず知らずの成人男性に住所を教えた手前、「やっぱやめた」はリスクが大きい気がした。誹謗中傷にビラまき、着払いで高級毛ガニを送りつけられる可能性だってある。

 

目の悪くなってきた祖母の話が本当かどうかはわからない。

仮に本当だとしても、お婆さんは死なない。断りの連絡と持病の発作のタイミングが重なったとしてもこちらの過失ではない。

身の安全を優先することを責めないでおくれよ。

 

男性から返信が届く。「ナビの表示で60分なので14時過ぎの到着予定です。」

来ることが確定したので急いでテレビの配線をすべて外す。

画面、土台、背面。ぱっと見でわかる汚れは全て落とし、念の為ペットボトルのお茶を冷蔵庫に入れておく(渡すかどうかは別として)。

 

予定通りの時刻に男性から連絡が入る。家の前までやってきたという。テレビを抱えて外に出る。

現れた男性は、ポロシャツに白のパンツを合わせた余裕のある大人のカジュアルスタイルだった。

停められた車はピカピカに磨かれた黒のレクサス。助手席には品の良いお坊っちゃんの姿も見える。

 

簡単な挨拶を済ませ、後部座席にテレビをのせる。お互いに礼を言い合ったら、あとはもう見送るだけだ。

ピカピカに磨かれた黒のレクサスが遠ざかっていく。

あっという間の出来事だった。費用ゼロで処分が完了した。

 

受け取りに来るのは首元のよれたTシャツを着ているがさつなおじさんだと思っていた。後部座席はもちろん助手席まで荷物で一杯の、仕事もプライベートも全部それで移動しているような軽バンで来るのだろう、と。もともとの白が日に焼けてアイボリーみたいになった、走行距離行き過ぎて下取りにも出せないみたいな軽バン。

男性はイメージと全然違った。

「今日中に取りに来れる人〜」って声をかけて、まさかピカピカに磨かれた黒のレクサスに乗って余裕のある大人が来るとは思わない。10年近く利用したテレビ(ハイエンドモデルでもなんでもない)のために、往復2時間車を走らせるとは...。

 

夕飯の後、冷蔵庫を開けて思い出した。そういえば「わざわざ引き取りに来てもらうのだから...」と念のためのペットボトルのお茶を用意していたのだった。すっかり忘れていた。

キンキンに冷えたそのお茶を飲みながら、まぁいいか、と思う。

テレビを貰いたくて連絡をしてきたのは向こうだし、助手席に乗ってたガキはずっとゲームをやっていて顔すらあげなかったもんな。

 

リビングでは両親と婆さんがプレバトを見て笑っていた。画面の中では梅沢富美男さんが夏井先生と喧嘩をしている。