いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

試着してもいいですか?

グーグルマップに頼らず、記憶を頼りに駅から歩いて行った。

見覚えがあるような、ないような景色の中を不安交じりに歩いていく。

 

川沿いの遊歩道にでたところで安心をした。見覚えがある。この道を真っ直ぐ行くと会場に着く。

 

会場に着くと先客が2人いた。どちらもぴしっとジャケットを着こなし、綺麗に磨かれた革靴を履いていた。

 

僕は僕で格好つけて家を出てきたが、先客の2人とはなんか違う。彼らはオフィスカジュアルのような感じ。ジャケパンスタイル、ってやつ?

どカジュアルの格好の僕は、やっぱり来ない方が良かったかも…と弱気になる。

 

今日はいつものリュックではなく、トートバッグを肩に掛けて家を出てきた。

しかし、トートバッグを使えばオシャレ、などと思っている人間が来る場所ではなかったのかもしれない。

 

春以来2度目の参加。この日は2019年春夏製品の展示会に参加させてもらった。

 

このブランド(メーカー)の展示会は誰でも参加することが出来る。ホームページに掲載された展示会の案内にそう書いてあった。

 

ダサい人お断りの文言はなかったから…。

 

だから参加した。ダサい人は来ないと思って書かないでいたとしたら、ごめんなさい。

暗黙の了解が届かない程度のリテラシーで参加してしまいました。

 

他のブランドの展示会って、参加のルールはどうなっているのだろう?

 

イメージとしては招待制。オシャレな人やインフルエンサー、あとは太客。そういう人たちに招待状が届くっていうのが展示会のイメージだ。

誰でも参加していいっていうのはやっぱり異例なのか?

 

春に一度参加させてもらったので、試着が自由なのは理解していた。会場に入ったときに、気になったものがあったら試着してみて下さい、と言われもした。

しかし、自由とはいえ一言声を掛けるのがマナーというもの。

 

冷蔵庫の中に飲み物入っているから好きなの飲んでいいよ、って言われていたとしても、これ飲んでもいい?と確認の一言はあってしかるべき。

黙って三ツ矢サイダーを飲んでしまったら、その人とは今日でお別れかもしれない。絶交の理由にされても仕方がないほどの重大なマナー違反。

 

試着したいものはたくさんあった。ジャケットやシャツ、ジーンズも試着したかった。しかし、なかなか声を掛けられなかった。

 

試着してもいいですか?

 

この一言がなかなか言えなかった。

声を掛ければ振り向いてもらえる距離にいたというのに。緊張してか細い声しか出せなかったとしても、聞き取ってもらえるような距離にいたというのに。

 

たった一言がどうしても言えない。

物理的な距離を精神的な距離が押しのける。

声をかける相手は果てしなく遠い場所に行ってしまった。

 

タイミングを伺っていた。伺い続けていた。デザイナーの方(企画者?代表?なんて呼んだらいいのかわからないので一般的な呼称で)に声を掛けるタイミングを常に伺っていた。

 

他の参加者との会話が途切れたところで声をかけようと思っていた。付け入る隙のないほどのマシンガントークが繰り広げられていたわけではない。声をかけようと思えばかけられた。

しかし、タイミングが合わなくて無理だった。

 

一声かける勇気が間に合わない。会話が途切れたあとの、言うぞ、言うぞ、の気持ちの準備の間に次の会話が始まってしまう。

長縄の八の字飛びにうまく入っていけない子供みたいだった。タイミングはわかっているのに、縄に飛び込んで行くことができずにもどかしいあの感じ。

 

結局、デザイナーの方が声を掛けてくれてやっと試着ができた。

試着してもいいですからね、の声がうんざりした気持ちを含んでいるような気がした。

 

気のせいではないだろう。僕がデザイナーさんの立場だったら、もっとイライラを隠せない声音になっていたと思う。

 

着たいなら着ろよ、と怒鳴られても文句は言えない。それくらいに長い時間をモジモジとしていたのだ。

むしろ、優しい表現に抑えてくれてありがとうございます、だ。

 

前回はすぐに会場から逃げ出したが、今回は色々と試着をさせてもらった。

シャツにジャケット、ベストもジーンズも。

 

似合う似合わないはよくわからないが、しっくりくるしっくりこないはあった。

しっくりきた時の、うおぉぉぉ…って感じがたまらなかった。

 

しっくりきたところで男前にはならない。ちっともならない。

思わずにやけてしまっている分、鏡に映る禿げ(かけ)の男の顔面は気持ち悪さが増している。盛り付けの汚い煮物が誰かの食べかけ、って最悪でしょ?その感じ。

 

でも、しっくりきた時の高揚感で、自分が少し素敵に見える。

いい感じだな、と。

悪いなりにいいぞ。なんなら悪くないぞ、角度によっちゃあ、ありっちゃありだぞ、と。

 

甘い自己評価を覆さない。

この気持ち良さを手放さない。

断固死守だ!!!

 

何だろうね、借金は500万円のままだけど、オートロック付きのマンションに引っ越したみたいな。顔面の借金は全く減っていないのに、生活環境は快適になった。

 

不思議だな。摩訶不思議。

 

しっくりきたやつは注文しよう。その分のお金を稼がなくては。