いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

本来そこは寝る時間

お部屋での過ごし方はいかがですか?

今のアパートに住み始めて2ヶ月が過ぎた頃、一度だけ不動産屋から電話がかかってきた。アパート内で生活音(特に夜の)に関する苦情が頻出しているらしく、各部屋に聞き取り調査を行なっている、とのこと。

 

あくまでも聞き取り調査なので、と不動産屋は言う。電話を終えるまで、僕の部屋に対してクレームがつけられている、とは一度も言わなかった。

 

遅番の仕事なので、割と朝方まで起きています。生活音には気をつけて、一応テレビの音は小さくしているのですが…。

 

自分の部屋での過ごし方を説明しながら、どきどきしていた。恋のときめきならドキドキだが、隣人からのクレーム(の可能性)ともなれば平仮名の方で「どきどき」だ。パステルカラーからは遠く離れる。

 

薄壁の安アパートではたかが知れている(コストパフォーマンス最高!大家さん、いつもお世話になっています)。気をつけて過ごしても、生活音は筒抜けていく。

隣の部屋の生活音が雑音多めのAMラジオくらいの解像度で聞こえてくるのだ。

 

説明を聞き終えた不動産屋は、ご協力ありがとうございます、と言って電話を切った。予想に反して(いい意味で)、後日にやってくる改めてのクレーム連絡もなかった。

本当に住人の生活状況を把握するためのただの聞き取り調査だったのかもしれない。

 

当時のお隣さんは左右どちらの部屋も深夜2時3時まで生活音が聞こえてきた。ヤンキーのカーステレオみたいなボリューム(苛立ち補正あり)で賑やかな日も一度や二度あった。

 

一般常識で考えたら、普段聞こえてくる生活音ですら、深夜にその音はなしだよ、って音量だったかもしれない。

 

僕は全然気にしていなかった。自分が夜型の生活を送っていたことは考慮しなくてはならないが、普通に生活をしていれば出ちゃう音量についてはなんとも思わなかった。

黒板に爪を立てる音や、悲鳴の後に何か重たいものが膝から崩れ落ちる音(明らかに受け身をとれていない)が聞こえてこなければ基本的に受け流せる状態だった。

 

「深夜だから」とか、「昼間だったら」とかじゃなくて、普通にしてたらそんくらいの生活音は出ちゃうよな、って音量だったら文句を言う気は起こらない。寛容というかなんというか、薄壁ワンルームアパートで生活を続けていくにはある種の鈍さが必要なのだ。

 

コスパ最強のアパート(処世術の一つ、媚諂い)に住んで6年半が過ぎた今、アパート正面の道路の工事が始まった。朝8時頃から昼過ぎまでズドドドガガガガ、ガシャンガシャンと重機が暴れまわっている。

建築基準法に違反した骨組みスカスカ物件ではないと思うけど、それを疑ってもいいくらいの工事音と振動が部屋の中まで響いてくる(道路工事だから頑丈な骨組みでも結果は同じ?)。

 

昼間の工事。普通なら仕事に出ていて不在の時間。近隣住民になるべく迷惑のかからないスケジュール。

 

しかし遅番のバイトをしている僕にとっては睡眠のゴールデンタイムだ。眠りの国のお姫様状態。深い眠りに落ちている。

姫との違いは迎えの種類で、これがツラい。あちらは王子で、こちらはアラーム。こちらの迎えは無慈悲なまでに正確で、大音量で鳴り響く(音量は起きられない私の都合)。ノンレム睡眠御構いなしだ。

 

本来なら深い眠りに落ちている時間に道路工事が行われる。ちょっとやそっとのアラーム音には反応を示さない僕ではあるが、振動もセットだと流石に起きる。

 

ちょっと寝たところでズドドドガガガガ。再び意識が遠のいたところでガシャンガシャン。いつものように乗り込んだ睡眠特急は各駅停車に強制変更。取れる疲れも取れやしない。

 

クレームをつけたらどうなるのだろう?睡眠を邪魔されたと主張したらどうなるのだろう?

実際に言う気は無いが想像をして、恥をかくのはこちらだけだ、と結論づける。「え、この時間に(寝るの)?」と素直にリアクションをされたときに、追い詰められる自分が見えた。

 

何時だと思ってんだ!と怒りをぶつける時間に起きていて、ぶつけられない時間に寝る生活。

大学を卒業して以降付いて回る(自分で結びつけてしまう)普通になれなかった、の感覚がここでもまた。

 

いつも通りの睡眠で満足感を得られない僕は、アラーム設定を後ろにずらす。いつもよりも1時間遅い設定は、バイトに間に合うギリギリの時間。二度寝は決して許されない。

 

ズドドドガガガガ、ガシャンガシャン。またもや工事に起こされる。枕元のスマホを手に取り、時刻を確認してから目を閉じる。

 

アラームまでは70分。このタイミングで寝直して、ちゃんとアラーム音に気がつけるだろうか?

 

起きられない可能性を想像してドキドキする。

この「ドキドキ」はカタカナだが、パステルカラーからは程遠い。