いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

Suicaならまだしも。

愛想が悪いな、とは思う。

うぉっ、マジか、とも思う。

思うけど、それだけ。その先には進まない。

 

引き戸を開け、定食屋をでる。「今日は外れだったな」と思い、コンビニに向かう。デザートを買って気持ちのマイナス分をチャラにするつもりだった。

 

いつものようにメンチカツ定食を注文した。ご飯と付け合せのキャベツはおかわり無料。1000円以内の食事としてはかなり高い満足度を得られる。

 

この食事を、えっ?たった1000円で?ご飯とキャベツのおかわりも自由なのに?

この部屋を、えっ?たった6万8千円で?世田谷区で築浅の2LDKで?

事故物件のようにお買い得のメンチカツ定食。

まさかミンチにされたのって...はっ。そういえばあいつの顔最近見かけないな...。

 

厨房にいるのはいつものおばさんではなく、見かけない男性。愛想が悪いが手際はいい。新人ってことではなさそうだった。

 

付け合わせのキャベツの中に一筋の黒を見つけたとき、箸を持つ手が一瞬止まった。少し縮れた黒い毛が一本、千切りの緑の中で異彩を放っている。

厨房の中に目をやり男性店員の髪型を確認する。頭髪の可能性は消えた。

腕毛にしては力強い。毛質で判断をするなら脛毛か陰毛と考えるのが妥当。どっちなら脛毛であって欲しいけど、脛毛がキャベツの千切りキャベツに入るだろうか?

「そんなところになんで?」って意味では陰毛が可能性のトップに君臨するが、だとしたら短い。平均的な陰毛の(平均的な?)半分以下の長さしかない。

やはり脛毛なのだろうか...。

 

白い皿の真ん中に毛を戻す(他は普通に食べた)。クレームは言わないけど混入していた事実はアピールしようと思った。

立ち上がり、厨房に目を向ける。こちらに気がついた男性店員に「ごちそうさまです」と声をかけて店を出た。完全に無視をされた。

 

 

「3点で840円です」合計金額を伝える。客は黙ってスマートフォンを決済端末にかざす。

僕は少し待ったあと「支払い方法はなんですか?」と聞いた。

「は?」と返事をしてから「QUICPay」と答える客(←たぶんこいつ大学生)。客の発する「お前店員のくせにキャッシュレス知らねぇのかよ」のニュアンスをきっちりと汲み取り、何も言わないことにした。

 

「スマートフォンをかざすだけの支払い = QUICPay」の頭で生きてる大学生に説明する気持ちは湧いてこない。

Suica、iD、QUICPayなどなど。

スマートフォンを決済端末にかざされても、支払い方法を宣言してもらわないとレジ操作は進められない(バイト先のレジの場合)。そのことを教える気持ちは湧いてこない。

 

出入り口に向かう客の背中に「またのご来店をお待ちしております」の一言はかけなかった。マニュアル無視の姿勢は、2度と店に来なくていい客に対する僕なりの抵抗だ。

 

 

ビニール袋の中には贅沢チョコレートバー。ローソンの新商品のアイスだ。チョコレートの絶対に美味しいやつ。

これさえあれば、さっき定食屋でマイナスになった分の気持ちをチャラにできるはずだ。

 

定食屋の男性店員の態度を思い出す。

ごちそうさまを無視されたこと(完全にこっち見ていたのに)、無愛想な接客。

それぞれムッとする部分はあるけど、クレームをいれると想像すると「ぞわっ」とする。自分(客)のことをなんだと思っているのか、と。払う金がなければ相手にしてもらえない立場なのに。

 

毛が入っていたことはどうだ?

言う?言わない?

うーん...2本以上入っていたらかなぁ。

 

毛が入っているのは嫌だったし、「あいつの」と思うとさらに嫌だったけど、クレームを入れるとなると...うーん。その先に目的が見いだせない。

謝ってもらいたいわけじゃないし、作り直してもらいたいわけでもない。

アピールはしたいけど反応は求めていない自分の中の落とし所が、毛を皿の真ん中において帰ることだった。これは寛容な態度でも許しでもない。諦めだ。

 

自分の接客中の態度を思い出す。機嫌が悪い時、客のタイミングが悪い時、客の態度に腹が立つ時、 どんな振る舞いをしているだろうか。おそらく(いや、ほぼ確実に)、客から見てムカつく店員になっているはずだ。

気をつけても、仕事だからと言い聞かせても割り切れず、滲み出す不機嫌さや不親切さが必ずある。

自分にできないことを相手に求めない、という意味で僕は諦める(普通に腹は立つけど)。

 

 

アイスが棒だけになった頃、やっぱりQUICPayの客のことは許せねぇ、と思った。無知はお前の方だろ、と。

決済端末にスマートフォンをかざすことに「当然〇〇」があるとして、それはQUICPayではないと思う。Suicaをかざした時に当然とされるならまだしも、QUICPayで当然はお前の中での当然でしかないだろ、としか思えない。少なくとも今は(各方面への配慮)世の中の当然ではない。

どうせアレだろ。お前みたいなやつは、会社で出世したことを世の中全体で出世したことだと勘違いして、あらゆる場所で偉そうに振る舞って嫌われ者になっていくんだろ。そうに決まっている。

出世はできるって言ってんだから怒るなよ。こっちはフリーターだぞ。

 

 

店員の態度や毛の混入は諦められる。

大学生の客の態度は許せない。

 

自分の反応が随分と違う。他人事だと思えばQUICPayの件の方が許せそうなものだけど、自分事となれば「許せない」でファイナルアンサー。向こうから謝ってこない限り絶対に許してやんない。

こんなに違ってしまうのはなぜかと考えて、明確な理由にあっさりとたどり着いた。「自分がそうだから」

 

自分が接客中に不機嫌になったり不親切になったりするから、店員の不機嫌さや不親切さに対して文句を言わない(腹は立つけど)。

自分が決済端末にスマートフォンをかざすときに支払い方法を伝えるから、当然QUICPayだと思っている大学生にものすごく腹が立つ。

 

相手の態度について共有できる感覚が自分の中にあるのかどうか。その有無が「諦められる」「許せない」の違いにつながっているみたいだ。

自分の感覚は大切にするべきだと思う一方で、「許せない」と感じる力強さにどこか怖さも感じている。