いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

ランドルト環に光が差した

上。

右上。

左。

下。

上。

えー、右。

んー、みぎ…した。

ひだ…り、…うえ。

 

だいたい1.0だった。1.2を掴み取ったことがあったような気もするけれど、あってもたぶん片目だけ。1.5を計測した記憶はどこにもない。

視力検査は、余裕で判断できたり半分当てずっぽうで判断したりの振り幅の中で、結果的にいつも1.0の診断になっていた。

 

スマホを使うようになってからは近くを見る機会が増えた。知らず知らずのうちに近くを見ている感覚。しかもぎゅっと力を込めて。

 

中学・高校の時の授業中、好きな子の背中を見ていていた(気持ち悪いのはたぶんお互い様。あなたにも、目が勝手に追っていた背中があるはず)。あの時の追い方って、周囲にバレないように気を使いながらの盗撮スタイルだった(バレて囃し立てられて、その子に迷惑がかかるってことを避けるために)。

 

スマホを見る時って、あの時にはあった感覚の分散のようなものが失われている。一点をぎゅっと見て、そこ以外の景色はなくなってしまう感じ。

周囲への警戒を手放して目の前の(しかも至近距離)小さな画面の小さな文字に神経やら筋肉やらを全投入するので、パソコンの比ではない眼精疲労に襲われる。肩こり・腰痛並みに目に重さを感じるようになった。

 

少しずつ目を細めて文字を見る機会が増えてきた。あれ、こんな見えにくかったっけ?と思うことも出始めた。めぐリズムに応援要請をする機会がぐんと増えた。

今はきっと見えていない。

1.0に記載されたランドルト環のどこに開きがあるのか見えやしないだろう。僕の目に映るランドルト環は口の開きを失い、光はどこからも差し込まなくなっているだろう。

 

電話には祖母が出た。用があって久しぶりに連絡をしたのだ(金の無心ではない)。

知らない女の人が電話にでたら山勘で「弟がいつもお世話になっています」と言うし、部屋を物色中の泥棒がでたら「何か金目のものは見つかりましたか?」と尋ねる準備はできていた。

 

そうでしたか、我が家に侵入するのは初めてでしたか。

えぇ…えぇ。そうなんですよね。今回同様に目論見通りの成果を得られないという方は多いみたいなんですよね。

まぁ、でも普通は期待しちゃいますよね。家自体は建て替えたばかりで綺麗だし、住人一人につき一台クルマを所有していますし。こりゃあ盗みがいがあるぞ、って。

 

意気込んで侵入してみたら、リビングにも寝室にも全く金目のものが置いてない。金になりそうなものは、地デジ移行に合わせて買った40インチのテレビが一台あるだけ。重量の割には市場価値がとっくに失われていて、持ち出す労力の方が勿体無いというひどい有様。

リスクをとって侵入してこれかよ、と落胆される気持ちはわかりますが、田舎の車社会はこんなもんなんですよ。家の築年数も車の所有台数も、都会とは比べ物にならないくらい家庭の経済力との相関関係が見られないんですね。

残念ですが他を当たってください。

 

両親が出ようが祖母が出ようが構わなかった。身内が出れば誰でも構わない要件だったので、そのまま祖母に伝える。

 

祖母が自分の話を始めた。

ここ数年ずっと目の調子が悪く小さな文字だけでなく色々と見えづらい状態だった。時間の経過に伴う悪化も少しずつおきていたので、この間手術を受けた。

 

緑内障?白内障?

昨日の今日ですっかり忘れてしまった。

目薬での家庭内ケアが当分の間は必要だが、術後の経過は良好で色々と良く見えるようになったらしい。

 

こんなタイミングで手術受けなくても、年明けてからでよかったのに。

大掃除が大変になるよ、見えんでよかった汚れまでちゃんと見えちゃって。

 

孫の放つ意地の悪い感想を聞いて、祖母は笑った。

口の開きを取り戻したランドルト環に、光が差した。