いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

唇のぷつぷつ(フォアダイス)が増え続けているので、病院に行って診察してもらいました(2-b)

メモ用紙にカタカナで「フォアダイス」と書かれたとき、安心をした。

 

聞いたことないでしょうが、と言った男性医師の言葉に無言で頷く。間違ってもそうだと思っていた、とは言わない。

 

唇・ぷつぷつ・白い・痛み・痒み・増殖…。

 

2年も唇に居座られているのだ。悪い情報に触れないようにしようと思っていても、気持ちがぐらつき不安が大きくなった時にはどうしてもネット検索をしてしまう。

 

近所のコンビニにヤンキーが1人車で乗り付けて、大きな声で電話をしている。車高は低く、エンジン音はうるさく、加藤ミリヤと清水翔太の歌声はそれ以上の大音量。

そいつがいるだけで店に行くのが少し嫌になるのに、いつの間にやら車は2台になり3台になる。ヤンキーは2人になり、3人になり、5人、7人8人とネズミ講的に増えていく。そのコンビニにはあまり行きたくなくなる。

 

唇にぷつぷつが増えていくことに対する気持ちは、そういう感じ。嫌だなって気持ちと、距離を置きたくなる心境とのダブルパンチ。

 

店に行くのがすごく嫌で、なるべく距離を置いておきたいんだけど、仕事終わりに近所で開いている店がそのコンビニしかない、みたいな。

 

気持ちがぐらつき、不安が大きくなったときには、ついスマホを手に取ってしまった。色々とキーワードを組み合わせて検索をかけてしまった。

 

フォアダイスの可能性には割と早い段階でたどり着いていた。ここですぐに皮膚科を受診していればよかったと今となっては思う。

 

僕はネット検索を続けていた。気持ちがぐらついた時に少しずつ進めて、少しずつ、別のちゃんとした病気の可能性を考え始める。

 

結果的には病気の方ではなかった。専門の病院で検査をしてもらうまでの間に、沢山のグロい画像や不安になる症例を見てしまった。不安は日々大きくなり、唇のぷつぷつは日々その数を増やしていく。

 

もしかしたら、という可能性に情報が巻きつくことによって、自分がその病気の患者のように思えてくる。

自分はその病気の患者で、だけどもしかしたら違うかもしれない。フォアダイスかもしれない。

 

もしかしたら、が変化していく。前提と可能性が入れ替わる。

 

もしかしたら、フォアダイスではなくて何か別の病気かもしれない。

もしかしたら、病気ではなくてフォアダイスかもしれない。

 

普通なら皮膚科に行って、原因がわからないので専門の病院に行く、という流れだろう。皮膚科じゃないならどこだ?自分はなんなんだ?という順番。

 

しかし幸か不幸かネット社会、幸か不幸か時間を持て余したフリーター。自分を追い詰める情報を自分で収集してしまった僕は、皮膚科になんか行っても何も解決はしない、そう思い込んでいた。思い込むことを強く行っていた。

不確かな情報にぐるぐる巻きにされて身動きが取れなくなってしまっていた。

 

専門の病院での検査を経て皮膚科を受診する。目の前の男性医師からフォアダイスだと告げられる。

カタカナでフォアダイスと書かれたメモ用紙を見せられ、聞いたことないだろうけどね、という入り口でフォアダイスについての説明を受ける。医師はグーグル検索をしてフォアダイスが唇にできた人の写真を見せてくれた。

 

そうだと思ってたけど、というのが本音。思い当たっていたし、知っていた。

フォアダイスだろうと思って受診して、フォアダイスだと告げられただけ。ものすごく安心はしたけど。

違う名前を告げられたら完全に動揺してしまっただろう。

 

見せられた写真は当然見たことがあった。なんならこの写真を見て、自分の唇にあるものはフォアダイスだろうと見当をつけた。

 

知っている情報ばかりだったが、不確かな部分もあったので初めてのふりをして真剣に話を聞く。

知っていることを悟られてはいけないし、知っている人のスタンスをとってはいけないのだ。

 

ネットで得た付け焼き刃の知識で口答えする患者が一番嫌われる。プロ野球選手に変化球の投げ方を教えようとするおっさん(おじさんではなく)と同じだ。

何を偉そうに、相手は誰だと思っているんだ。相手を見てから物を言え。

 

聞きたいこと、言いたいことを伝えるのは話を聞き終えてから。

 

先生のお話ですと〇〇だったのですが、ネットを見ていると××という意見もあったのですがいかがでしょうか?

 

医師に対する敬意は絶対に必要で、知っていても知らないふりをするのはマナーみたいなもの。

 

〇〇なんじゃないですか、と意見するのは生意気。知ってます、というのも可愛げがない。あ、それ聞いたことあります、くらいが可愛げがあっていい。

 

医師は人間だから、親身になってあげたい患者とそう思えない患者とを分けてしまう。少なくとも、ネットで得た付け焼き刃の知識で対等に会話をしようとする患者のことを好ましく思わない。なんとか安心させてあげたい、と思うのは難しいことだろう。

あれ、そう思うの僕だけ?

 

知っている情報を初めてのふりをして聞き続けているうちに、じゃあそろそろ…という空気になった。僕は、従順で無知な患者の仮面を脱ぎ去り、医師に対して口を開く。

 

「これは他人に感染することはないですか?」

 

脂だから、皮脂だから。フォアダイスというのは、独立皮脂腺に皮脂が溜まった状態でしかないから。

大丈夫だろうとは思っていたけれど、聞かずにはいられない。言質を取らずにはいられない。嘘でもいいから希望を持たせて。先生、お願い!

 

「ないない、これは皮脂だからね、そういうやつじゃないから。」

 

「じゃあ、あの…自分だけの問題として考えればいいというか、誰かに迷惑をかけてしまうんじゃないかと心配しなくても大丈夫ってことですよね?」

 

「うん、病気じゃないからね。皮脂がたまたま唇に溜まってしまっただけだからね。」

 

退室の際に渡されたメモ用紙は、ちゃんと持ち帰った。家に帰るまでくしゃくしゃにしなかった。

 

カタカナで「フォアダイス」と書かれたメモ用紙。ものすごくいらなかったけど、安心させてもらったお礼に素直に受け取った。

 

先生にもらったこの紙を見て、インターネットで調べてみます。ありがとうございます。

きっとそういう顔をしていたに違いない。

 

言質を取ったあと、すぐにかぶり直したのだ。従順で無知な患者の仮面を。