いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

ポテト・テカリーヌ。

その音に続いて高温の油の中から姿を現した。揚げたてのポテトは油を滴らせている。

僕の前には3人の先客がいた。

 

駅のすぐそばに立地するこの店は、電車の到着とともにまとまった数の客がやってくる。仕事帰りのサラリーマンが続々とレジに並ぶが、そのほとんどがテイクアウトを選択する。

来客数が多い割には、夜の時間帯はいつ行っても席を確保できる。僕にとっては便利な店だ。

 

マックが好きかと問われれば、うん、まあ…たまにどうしても食べたくなる時があるよね、と答える。

 

好きの中にもいろいろあって、僕にとっては毎日でも週一でも月一でもない。たまにどうしても食べたくなる好きな食べ物。

 

たまに会うと賑やかでいいね、と思える友人っているでしょ?

翌日も会うなんて真っ平御免だし、3日連続なんて会社に行くよりも憂鬱、なんて人。

そういう食べ物。たまに食べるとすげーいいやつ。

 

普段の僕は、小一時間のんびりできる場所としてマックに行っている。コーヒーを飲みながらゆったりするのが目的。ポテトもハンバーガーも全然いらない。

カフェとしての利用。

 

部屋にいて息が詰まりそうな時、このままじゃ部屋から出ないまま1日が終わってしまうぞって時。そういう時に僕はマックに行く。

もちろん、どうしても食べたくなった時も。

 

コーヒーブレイクって言うんですか?

貴婦人で言うところのお紅茶にしましょ、のお時間。頂き物の美味しいモンブランもあるわよ、のサイドメニューなしバージョン。

 

近場にいくつかカフェ(コーヒーチェーン)はあるのだが、コーヒー1杯で400円、500円。

300円台からメニューはあるが、一番小さいサイズでこの値段ならちょっと多く払ってサイズ変えようかな、と思ってしまう。結果400円、500円になってしまう。

 

僕は基本的に、コーヒー代金には場所代も含まれていると思っている(テイクアウトならスタバを選ばない)。

 

椅子とパーソナルスペースとコーヒーで〇〇円。

 

それがカフェだと400円だったり500円だったり、マックだと100円だったり200円だったりする。

 

近所のカフェは、オシャレの弊害が生じている。

客、客客。賑やかな話し声。

計算通りの快適空間に人が集まり、滞る。循環しているのは空気だけ。天井でプロペラがくるくると回っている(あれの名前なんだっけ?)。本当ならお客さんにもあれくらいくるくると入れ替わってもらいたいところだろう。

 

ゆったりとくつろげるソファー。十分なパーソナルスペースを確保する机の配置。なんかオシャレ、というニュアンスの集合体のような店内。

 

オシャレ過ぎないために、私なんかが…と卑屈にならずに通えてしまう(僕が入店できるカフェなんだもの)。人が集まってしまう。

選ばれし勇者じゃなくても、もうちょいで引っこ抜けそうなところまでは動いちゃうエクスカリバー。

 

コーヒーを飲みながらくつろぐ場所としてすごく整っている。小一時間くつろぐのに500円は納得できる。

だけどマックに行っちゃう。だって、近所のマックは一番バランスがとれているんだもの。

 

ソファがあって、テーブルがあって、客がいない(家族連れは帰り、仕事帰りのサラリーマンはテイクアウトがほとんど)。僕の注文はホットのコーヒーかカフェラテのMサイズ。

この状況を150円や200円で手に入れることができてしまう。小一時間ゆったりと過ごすことができてしまう。

 

近所のマックは空いているし、安いし、美味しいし(どっちの方がどう美味しいかなんてわからない。どっちも美味しいよね、程度の味覚)。わざわざカフェに行く理由がないのだ。

 

月なのか、天体なのか、なんの周期に合致したのかついに来た。どうしてもマックが食べたい時が来た。

アプリを起動して、クーポンをチェックする。アイダホバーガー?テキサスバーガー?

 

心は決まった。いざ行かん!

 

列の最後尾に並ぶ。僕の前には3人の客がいた。

遅い時間に行ったので、レジ1人・厨房1人の態勢だった。注文をどんどん受け付けるやり方ではなく、提供まで完了してから次のお客さんがレジに案内された。

 

1人目のクーポンを使って三角チョコパイとコーヒーのセットを注文していた。店内利用。

 

2人目3人目はテイクアウトで、どちらも新商品のセット。この2人はクーポン券を使わずに注文をしていた。

セットをクーポン利用なしで注文するなんて…あなたたちは何者?何処かの国の王様?それとも会社の経費で落とせるの?

 

スマホを握る指先に力がこもる。すでにクーポンの画面を表示させていたのだ。準備万端で待っていることがなんだか恥ずかしくなる。

 

店員さんがポテトをすくって箱に入れている様子を見ていて、来たかも…と思った。これは来たかも。揚げたて来たかも。

 

2人目にすくっていた時よりも、3人目にすくっている時の方が明らかにポテトが少ない。さっとすくって、だだっと持ち上がって来た2人目の感じがない。3人目のポテトは何度もすくって用意された。

 

これはあるぞ、僕の注文のタイミングで揚げたてあるぞ。

 

クーポンを見せてアイダホバーガーのセットを注文する。ドリンクは何にするかと聞かれたタイミングであの音が鳴る。

 

高く美しい弧を描いたシュートがゴールネットを通過する。スリーポイントシュートが決まる時の音を聞く三井寿のように、ポテトが揚がった時のあの音を聞く(こちらの音は耳を澄まさなくともよく聞こえる)。

 

爽健美茶を選んで(コーヒーの気分ではなかった)注文を完了する。料金を支払い、提供を待つ。

 

揚げたてのポテトは油を滴らせている。カウンター越しに見てもテッカテカ。食欲をそそられる。

 

早くそのカゴをひっくり返して。そのカゴをひっくり返してポテトをぶちまけておくれ。たまにしか食べないから塩分とか全く気にしていないからさ、塩をたくさんふっておくれ。

 

アイダホバーガーを完食し、爽健美茶を飲み干し、ポテトは半分残して(もったいないとは思ったけど)食事を終えた。

大きく息を吐き、片付けをして店を出る。

 

塩分を気にする必要はなかった。

塩はふられなかった。

カゴはひっくり返されなかった。

揚げたてのポテトはカゴに入ったまま油を滴らせていた。

 

嘘だろ、と思った。

店員さんがカゴに手をかけなかった時ではなく、ポテトを救う金属のあれ(スコップみたいなあれ)にも空箱にも手をかけなかった時でもない。

それはそれで嘘だろ、と思ったけど、それらを完全に飲みこんだ。飲み込み、塗りつぶし、改めて嘘だろ、と思わせた。

 

店員さんは手を伸ばした場所を僕は全く気にしていなかった。

 

手を伸ばし、赤い箱を掴み、トレイにのせる。UFOキャッチャーでそれならすぐに店が潰れてしまうくらいの高性能アーム。

僕の大きく膨らんでいた期待を握りつぶした高性能アーム。

 

それは作り置きのポテトを並べるスペースの一番端にあった。カウンター越しに見ると全くテカリのないポテトが入った箱が、作り置きスペースの端に一つだけあった。

 

カウンター越しに見ると全くテカリのなかったそのポテトは、目の前に来ても全くテカリがなかった。

予想を裏切らず、一口目からもうぬるい。

裏切っても良かったんだよ。時には優しい嘘が必要なんだよ。

 

アイダホバーガーを先に食べよう、冷める前に食べ切ろう、とすぐに切り替えた。いや、正しくはポテトを切り捨てた。テカリがないくせに、ちゃんと指先をべたつかせたところもまた腹が立つ。

 

今思えば、2人目と3人目のお客さんのポテトの箱は少し大きかった。ドリンクのカップも少し大きかったような気がする。

2人ともLサイズのセットだったのかもしれない。今思えば。

 

…悔しい。テカテカの揚げたてポテトを目の当たりにしていただけに悔しい。

 

アイダホの借りはテキサスで返す。