いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

2年6ヶ月ぶりに電話が鳴って思うこと

いつもなら寝ている時間だった。

昼の2時は、設定したアラームよりも早い時間。アラームだとしたら誤作動だが、それは紛れもなく正常に作動していた。

着信だった。世間はお盆休みだった時のこと。

 

2年6ヶ月ぶりに実家とバイト先以外から着信があった。
久しぶりに代表に選出されるサッカー選手くらいの長い期間、僕は知人・友人からの連絡を受けていなかった。連絡は来ないのが当たり前なので、寂しさを感じることはない。

 

着信なしが当たり前なのは、僕と知人・友人とが連絡を取り合うような間柄ではないから。

いやいや、言葉を交わさなくたって通じ合えているから。深く理解しあった間柄だからこそなせるわざ

そう、物は言いよう。

 

充電中のスマートフォンの画面がパッと明るくなり、中学生の時の友人の名前が表示された。その名前の下で電話のマークが揺れている。

 

登録していない番号からの電話に出るかどうか迷うように、この電話に出るかどうかを迷った。登録してある番号だからこそ迷ったとも言える。

近況報告なんて真っ平御免だ。

 

それに、電話に出たら出たで色々と難しい。
相手が誰かわかっていて電話に出るということは、互いが関係性のニュアンスをを擦り合わせた状態で会話が始まるということだ。

 

歌い出しのキーは合うだろうか?

歌い出しでアクセルを踏みすぎて、Bメロでいっぱいいっぱいになるのは嫌だ。高音のサビを原曲キーで歌ってこそカラオケは気持ちがいい。

 

もしもし、のトーンに迷う。
怖いのはトーンが高すぎてしまうこと。用件がわかっていないのに高く入って、その後の修正を難しくするのだけは避けたい。

 

抑えをきかせた、久しぶり、元気?で会話に入り、流れで一気に高くするほうがリスクは低い。

でも、誰からの電話かわかっていて抑えめに入るのは、なんかよそよそしいなと、相手に距離を感じさせる恐れがある。

 

相手が誰かわかった途端にハイトーンにするのは、固定電話を使う実家の母親の伝統芸能。誰からの電話かわかっていないことが前提だ。

 

イメージを固めて、電話に出る。初対面の相手に見せる気さくな態度をイメージして、もしもし、と言った。
相手を構えさせず、馴れ馴れしくもなく。イメージしたのはその塩梅だった。

 

我ながら上手く言えたと思う。あの言い方なら遠過ぎず近過ぎずだったと胸を張れる。
ただ、久しぶり、元気?まで言ったところで力尽き、完全に会話が止まってしまった。何か喋らなきゃと焦りつつ、こっちが悪いの?と疑問に感じつつ、黙って相手が動くのを待った。

数年振りに連絡を入れる相手に対して、何の用もないってことはないだろうと期待をして。

 

まさか、ただの思いつきだとは思わなかった。
冷静になって思い返せば、僕がもしもし、と言ったときに小さい声で、えっ?繋がった、と言っていた。

特に話したいことがあって連絡してきたわけではないようで、会話はふわふわとしていて、当たり障りないものになる。

 

お盆休みで地元に帰ってきているの?

盆は無理、パートさん達が休んじゃうから全く休み取れない。

そうなんだ。まぁ、帰ってきたらさ、連絡してよ。

うん、ありがとね。

・・・。

・・・。

あ、ちょっと他の人に代わるね。

もしもし、誰かわかる?

あぁ、はいはいはいはい。

わかってないだろ、〇〇だよ。

あぁ、〇〇。ちょっと声違くない?そんなに低かったっけ?

そう?もともとこんな声だけど。お盆休みは地元に帰ってきてるの?

いやー、無理無理。この時期は大学生も帰省してシフト埋まんないからさ。

そっか、大変だな。

 

何人かで遊んでいるときに、思いつきで電話をかけてきたらしい。
声当てクイズをやって、3人中3人相手が名乗るまで答えが出なくて、電話越しでも感じるほどに変な空気になる。それから、盆休みは帰省するのか、のやり取り。

 

やり取りからわかるように、僕は仕事について嘘をついている。まともに働いているフリをしているのだ。

 

2年半前、招待してもらった結婚式に参加するにあたり、ちゃんと設定を決めた。正直に現状を話すことではなく、無理のない程度に現状を脚色することを選んだ。

アルバイトとしてではなく、正社員としてバイト先のことを話すと心に決めた。

 

だって、恥ずかしいんだもの。

地元でフリーターをやっているならまだしも、東京でフリーターをやっているだなんて、恥ずかしくて言えない。

それに、地元に帰らない理由として、バイトがあるから、では弱い。正社員として働いている、って理由でないと理解してもらえない。

 

必ずと言っていいほど地元に帰らない理由を求められるけれど、どれだけ考えても、帰るほどの理由がない、という答えしか出てこない。

 

帰る理由がないから、帰らないのだ。
地元は好きだ。東京が好きってわけではない。帰らない理由はないけど、帰るほどの理由もない。

それ以上でも以下でもない。

 

電話してもらえて嬉しかった。同級生の中に少なからず自分が存在をしていて、ちょっと電話かけてみようか、程度には思われていることが素直に嬉しい。

でも、電話に出るかどうかはすごく迷う。地元に帰らない理由を用意しておくこともそうだけど、もっと嫌なのは、近況報告をすること。これが必要だから素直に着信を喜べない。

 

フリーターになってからの1番の悩みは、友達がいないことでも、稼ぎが少ないことでもない。年々禿げていくことでもない。

自分の現状を誰かに話すのが恥ずかしいこと。これが1番の悩み。

 

期待しすぎなんだろうけどね。自分の人生に期待しすぎているから、現状を恥じてしまうんだと思う。

 

正社員だったら、と考えることがある。

 

もしも自分が正社員だったら、同窓会に出席しているだろうか。

電話に迷いなく出られるだろか。

帰省したときには自分から声をかけたりするのだろうか。
聞かれてもないのに自分のことをベラベラと喋るのだろうか。

 

自分のことを話さなくてはいけない場面が来るたびに、胸を張れない人生を送っていることを突きつけられる。

 

誰からも連絡が来ない生活に寂しさを感じずにいられるのは、胸を張れない人生を送っている自分自身から目を背け続るのに、都合がいいからなのかもしれない。