いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

ニラレバ炒めに残る湯気

夜中に食べても餃子はセーフ。ラーメンもチャーハンもアウトだけど、餃子はセーフ。国際ローカーボ食連盟の競技規定に書いてあるとか書いてないとか(そんな連盟あるの?)。

 

厳密なアウト・セーフはさておき、精神衛生上のアウトとセーフは重要。

糖質の過剰摂取はしていないんですよ、と自分に対してアピールをしなければならない。触ってはいないんです、当たっただけなんです(あれ、これってアウトか?)。

欲望に対して理性が抵抗を示したことだけはなんとしても伝えなくてはならない(自分に対してだけど)。決して無抵抗に溺れたわけではなく、苦肉の折衷案なんです、と。

 

ラストオーダーの時間ですが、追加の注文はよろしいですか?

 

店員に聞かれ、戸惑う。

追加を食べたいのか、食べられるのかわからない。腹の具合がちっともわからない。

注文したメニューの提供と同時に追加の注文を聞かれても答えようがないのだ。

袖を通す前にもう一着オーダーしようかなと思わないのと同じこと。どんな具合かは着て初めて考えられることだ。

 

ラストオーダーの15分前に店に着いたお前が悪い。そう言われれば、下唇を噛んで目を伏せる。反論の余地はありませんから。

でも、でも、せめて他の客に聞いてからの確認でよくないですか?提供と同時に追加を聞かれても答えられないってわかりますよね?

 

わかっているからか?

あ、その可能性あるぞ。追加分を作るのが面倒くさいから、あのタイミングで聞いてきたのかも。

 

ちょうど使い切っていた何かのパックを新しく開けるのが嫌だとか、もう注文かからないと思って電源を落としていた設備を再稼働させるのが嫌だとか、洗った調理器具を使いたくないとか。とかとかとかとか。

 

あるぞ。あるね。あるある。

僕がバイトなら、そういう考えであのタイミングを選んじゃうし、追加注文かかりにくいから提供のタイミングで聞いてこいよ、って後輩に入れ知恵してしまう。

その可能性あるな(みんな正直になろうぜ。お前だけだ、って冷たい目を向けるのやめようぜ)。

 

追加で注文した分を食べきれない事態を恐れた僕は、大丈夫です、と答える。結果的に注文した分で十分だったので、腹も財布も助かった。

 

隣の席のサラリーマンはずっとスマホをいじっている。一皿(6個)を食べきるまでに、何回餃子に視線を落としただろうか?タレに付けてから口に運ぶまでの間に視線はすっかりスマホに戻っている。現代人のスマホ依存の象徴。

 

餃子を食べている途中に運ばれてきた野菜炒めをサラリーマンは食べない。ばっか食いをする人なのかと思ったけれど、餃子を食べ終わった後でも手をつけない。

湯気は姿を消し、欲望をそそった油は色気を失った。

 

ラストオーダーを聞きに店員が席に来た時、男が口を開いた(野菜炒めには口を開くどころか箸すらつけなかったというのに)。

 

これって野菜炒めですよね?ニラレバ炒めを注文したんですけど。

 

彼はとってもシャイな人だから。

自分から言い出すことができなくて、きっかけを待っていたんだよね。

 

もしかしたら自分が勘違いしているだけかも…そう思って言えなかったのかな?

メニュー表の写真とは随分と違う見た目をしているけれど、この店舗ではこれをニラレバ炒めと呼んでいるのかもしれない…そう思って言えなかったんだよね?

 

間違いを指摘したら、注文をとった新人の子が厨房のベテランさんに怒られると思って…そういう優しさで我慢していたのかも(結局は指摘したんだけど)。

 

もしかして、とそれぞれの事情を想像する。自分の立ち位置から考えたらあり得ないことだとしても、その人の立ち位置から考えたらあり得ることかもしれない。

 

優しさっていうのは、自分の立ち位置を手放した後に働かせる想像力のことだ(それっぽい。明日の朝には自分で馬鹿にしていそうだけど)。

 

食事を終えた後にだらだらとスマホをいじっていた軽度の依存症の僕を横目に(食べ終わるまではスマホを見てない。あんまり見てない)、サラリーマンが席を立つ。

皿の上のニラレバ炒めには、まだ湯気も油の色気も残っている。半分以上食べ残されている。

 

気分が変わったのかもしれない。腹の具合が変わったのかもしれない。

彼には彼の理由があるとわかった上で、店員さんの代わりに(僕の気持ちも上乗せして)言わせてもらう。

 

二度と来るな!!!クソ客が!!!!

 

僕は自分の立ち位置を手放さない。手放すのは優しさの方だ。