いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

LINEとはつながった

2019年4月22日、は「LINE」アプリのダウンロードを行った。

29歳の春、ついに。

 

正直言って、縁のないままだと思っていた。

ダウンロードをしないままだと思っていた。

今の生活が続いていく限りは現実的に用はなく、今の生活に変化の兆しは一切見えていない。

だけど、来た。来るときには来るようだ。

そのときは突然に。ラブストーリーよりも突然に。

ジャケット写真の小田和正は反り返りの角度をさらに大きくしていく。やがて反り返った手と足はつながり、円になる。

ゆっくりと回転を始めた小田和正が一定以上の速度に達したとき、イントロが流れ始める。

 

何から伝えればいいのかわからないまま、見切り発車でキーボードを叩いている僕。

何を言っているのかわからないのは僕も同じ。円になった小田和正がゆっくり回転を始めるってなに?

 

僕にとってLINEをダウンロードすることはものすごく大きな出来事だ。普通に人間関係がある人にとっては大したことがなくて、なんなら「はぁ?」と思うようなことだとしても。

 

スマホを使い始めてから9年以上が経過している。

大学のゼミの同期に「いわにしはLINEやってないの?」と聞かれてからだとしてもすでに4年以上が経っている。

あのときですら「えっ、なんで?なんかポリシーでもあんの?」と、洗濯機を拒んで頑なに洗濯板を使い続けるババアみたいな扱い(そんな時代もあったはず)をされたのだ。

ポリシーなんかない。シンプルに用がない。

連絡をしてくる相手も連絡をする相手もいないからLINEをダウンロードする必要がないだけだ。月1くらいのペースで実家からくる「お米はまだあるの?」というありがたい仕送りのご提案くらいしか連絡をとる機会も相手も存在していない。

ゼミの同期には「やってない。友達少ないから。」と返信をして、それが最後のやりとりになった。彼にとっての僕が、一歩踏み込むような相手でないことが判明して少し寂しかったのを覚えている。

「そっか…」で止まっちゃう感じや、「LINEダウンロードしなよ」までは来ない感じが。

 

テレビの中のおじさんたちが「メールで十分だろ、LINEなんて必要ないよ」と主張しなくなってからどれくらいの時間が過ぎただろう。

あのときLINEは必要ないと主張していたおじさんたちは「〇〇さんが未だにLINEやってないから個別に連絡をしないといけなくて、それがものすごく面倒くさい」と発言をするようになり、それすらも今ではトークのネタにされなくなった。

 

一度だけ、ピンチを迎えたことがある。

バイト先に連絡用のグループが作られ、僕も加入することを要求された。

もともと他のアルバイトとの関係性が希薄だった僕がその存在を知ったのは、僕以外の全員がグループに加入をしたあとだった。

存在すら知らなかったのに、ある日突然(もちろんラブストーリーよりも。円になった小田和正はゆっくりと回転を始める。)クレームをつけられた。個別に業務連絡をするのは面倒くさいからグループに加入してくれ、と。

突然のクレームに戸惑い、何から伝えればいいのか分からないまま時は流れた。ありふれた言葉だけが浮かんでは消えていき、明確な意思表示を何も出来ないままでいた。

大学生のリーダー格のアルバイトに言われた。

「業務連絡もシフトもみんなで共有しておくべきなんで、LINEを教えてください。」

7つも8つも年下の大学生に怒られて、流石に僕も黙ってはいられなかった。

「LINEやってないから」

冗談として受け取ってもらえない哀しさはさておき、気まずくなった大学生はそれ以上僕に何かを言ってくることはなかった(勝利の掴み方は人それぞれ)。

身を削った対価としてバイト先のグループLINEから開放された僕の表情は晴れやかだったのだろうか?

 

バイト先の連絡のためにLINEをはじめるのはどうしても嫌だった。童貞をこじらせている奴の「風俗で初体験は嫌」みたいなしょうもないプライドなのは重々承知していたけれど(初体験は24歳のときに歌舞伎町の風俗でしたけどなにか?)、業務連絡しか行わないアカウントを取得して、そこに普段のバイト中に大して雑談もしない仲の大学生たちが友達として追加されていくことに(想像の段階で)どうしても耐えられなかったのだ。

 

普段連絡を取る相手がいない、業務連絡のためのアカウント取得は絶対に嫌。

対人を理由にするならこの先も用はないのだが、経済的な理由でなら用がある。4月末まで行われているLINE Payの15%還元のキャンペーンが僕とLINEを結びつけた。

 

アマゾンや楽天市場のショッピングカートの中には、月が変わったら買う予定のものがいくつも入っていた(クレジットカードの今月の請求額と利用額がそれぞれ多めだった)。金額的には5万円を少し超えるくらい。

あと10日で5月だからそれまで待とう、そう思っていた。カートの中の商品はすぐに必要なものではなかったし。

 

月が変わるまであと10日。

すぐには必要でない商品。

今月のクレジットカード請求額・利用額多め。

 

真っ当な金銭感覚を吹き飛ばしたのは、別角度からの真っ当な金銭感覚だった。

15%還元をやり過ごす方がお金の使い方がおかしくないか?と。

15%還元はとても大きい。とてもとても大きい。

そのうえアマゾンのタイムセールと楽天市場のお買い物マラソンが重なる神タイミング。

 

頭の中に自分のバイト月収を思い浮かべる。

5万円の15%を計算してみる。

7500円。

うん、大きな金額だ。

スマホの電卓機能を使い、暗算で導き出したその金額が間違っていないことを確認する。

7500円、7500円、7500円…頭の中で反芻をする。紙に書いてみたり、口にしてみたりする。うん、やっぱり大きな金額だ。

頭の中に、時給を思い浮かべる。8倍して日給を思い浮かべる。

うん、うん、うん。すごく大きな金額だ。

ここにアマゾンと楽天市場のキャンペーンも重なると考えると…1万円近くお得に買える。

 

カートの中の商品は以前から入っていたものだ。還元目当てに探したカートに入れるための商品ではない。キャンペーンのための本末転倒な消費ではなく、もともと予定があったものの消費だ。

今月の請求額・利用額を考えれば懐に多少の痛みはあるが、目先の利益に狂わされたわけではない。3ヶ月の収支で考えたときに一番利益の大きくなるタイミングがここだったのだ。

このタイミングでLINE Payにチャージする分の5万円を引き落とししてもクレジットカードの支払いを滞らせることにはならないし。

理屈さえ整えばあとはもう購入手続きを進めるだけだ。

 

翌日の昼過ぎ、布団から出るのを渋っていたところにチャイムの音が鳴り響く。僕はすぐに布団を抜け出して玄関へと直行した。案の定、チャイムを鳴らしたのは配送業者だった。

発送元と発送日を知っているのだ。ラブストーリーに比べたら荷物の到着は十分に予測可能だった。

ジャケット写真の小田和正は、軽く伸びをしたような体勢だ。