いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

大人になれーずん?

これはチョコ…なのか?

どっちだろう。レーズンに見えなくもない。

 

ショーケースの中できらりと光って見えたパンがある。握りこぶしほどの大きさで、表面がゴツゴツとしているパン。

生地に練り込まれているものがチョコなのかレーズンなのかわからなかった。

 

商品の前に置かれたプレートには値段と商品名、アレルギー表示が書かれている。

商品名はフランス語だろうか。馴染みがない。

メロンパン、クリームパンほど近所ではない。

バケットやクイニーアマンよりももっと遠方。

JRはJRでも管轄が東日本から切り替わっているかもしれない。函南ってどこ?

 

名前からは判断ができない。アレルギー表示からも判断ができない。

見た目からも判断ができない。

 

チョコにもレーズンにも見える。

チョコともレーズンとも断定できない。

 

チョコでないなら要らなかった。僕はレーズンが好きではない。好きではない菓子パンに400円以上払うのは嫌だった。

 

勇気を出して店員に声をかけた。

「すみません、このパンの中に入っているのはレーズンですか?」

 

「はい。レーズンと、あとくるみが入っています。ハードな生地のパンなので、かなり食べごたえありますよ。」

 

「なるほど…」と独りごつ。

ショーケースを見渡して別の候補をすばやく探す。店員が完全にオーダー待ちの雰囲気になってしまった。

上段の右から左。中段の右から左。下段の右から左。

並んでいるどれもが美味しそうだけど、きらりと光って見えるパンはなかった。今日の気分で唯一のきらりが好きではないレーズンパンだったのだ。

 

 ショーケースの中にきらりがないと気付くのと同時に、「待てよ…」と思った。さっきの言い方だと「レーズンパンなら買いたい人」と思われたかもしれない。

気づいてしまったが最期、あとはもう観念するしかない。

これを機に好きになる可能性にかけてみることにした。

 

 「〇〇君は格好いいけど好みじゃないんだよね」と言っていた同級生の女の子が、告白されて付き合ったら(←まず、ここ!え?)むしろその子の方がぞっこんになっていた。

魚卵が苦手だった同級生は、北海道旅行で「せっかくだから」とウニやイクラを食べて以降、地元のスーパーのものでも美味しく感じるようになった。

 

「好きじゃない」とは言いつつ最後にレーズンパンを食べたのは中学の給食の時間。2周目に突入したばかりだった干支も、今ではもう3周目の折返し地点まで来ている。

自分の中に芽生えるかすかな希望。

周りの人よりも少しペースは遅いけど、僕だって少しずつ大人の階段を上ってきた。

今ならいけるんじゃないか!?

 

勇気を出して店員に声をかける。

「このレーズンのパンをお願いします」

 

 

500円を渡した僕に戻ってくるお釣りは100円にも満たない。

いいやつだから、きっと今日から僕はレーズンパンを…。

 

アパートに戻った僕は、すぐにお湯を沸かした。素敵なレーズンパンのお供をするのが飲みかけのペットボトルの麦茶では台無しだ。

インスタントだとしてもコーヒーでなくてはならない。

 

六畳一間の空間は、あっという間にコーヒーの香りで埋め尽くされる。

紙袋の中からレーズンパンを取り出して、一口。

店員の紹介通り、食べごたえのあるハードな生地だ。くるみとレーズンがふんだんに使われていて全く値段負けしていない。

 

コーヒーを一口。

もう一口。

うん、うまい

インスタントとはいえネスカフェ・プレジデントはうまい。

もう一口、コーヒーをすする。

 

マグカップをシンクに、レーズンパンをゴミ箱にそれぞれ片付ける。

腹も身のうちだ。もったいないから、と無理に食べるくらいなら、早めに見切りをつけて好きなものを食べたほうがいい。

大人になるって、こういうことだ。

 

僕が上っているこの階段は、正しい出口へと続いているのだろうか?