いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

私はまだ、暗闇の中

暗闇を抜け出して、光に照らされた道を歩いていける。

全てが変わると信じていた。

 

1月4日は思い出深い。記念日ではないが、そんじょそこらの記念日よりも僕にとっては深く刻まれている。記憶にもおちんちんにも。

手術を受けてから8年が経過した。

 

手術を受けたのは年明け最初の営業日。営業開始の時間に予約の問い合わせをして、その日の夜には手術を受けた。

出来るだけ早く手術を受けたいと伝えたら、今夜ならまだ一枠空いてる、と言われたのでその枠をお願いした。優柔不断が芯まで染まった僕ではあるが、やるときゃやるのだ。即断即決、即手術。

 

一富士二鷹三茄子、四包茎手術。

年明け最初の営業日の夜に空いていた一枠。それはつまり、年明け最初の営業日の夜に一枠しか空きがないということ。

切実な悩みに正月休みは訪れない。

 

個室に案内をされて問診票を渡される。初めて歯医者や内科を受診するときと同様に、個人情報や希望の治療を記入していく。

その後、診察室兼施術室に案内をされて助手の方に診察をしてもらった。

 

引っ込み思案で控えめな僕のニュアンスを完全再現したようなおちんちんを助手の方がチェックする。ムスコと表現することに完全納得の「俺の生き写し」感。

ただでさえ小さくて部屋にこもりがちな俺のムスコは、極度の緊張でさらに小さく、さらに厳重にこもる。部屋の引き戸に棒をかまして外部から他者が侵入するのを許さない。

 

「皮を切っても、亀頭が発達をしていないと被ってしまう時間は出てきます。寒さや緊張で縮こまったり、座っている時には露出しないことが多いです。」

切ってしまえば常時ズル剥けだと思っていたので、助手の方の一言メモに驚いた。言われてみれば当たり前のことだが、言われるまではその事実に気がついていなかった。

 

サランラップの筒に直径より大きなリンゴを乗せる。リンゴは筒の上に乗ったままだ。

筒の直径よりも小さなビー玉を乗せようとする。ビー玉は筒の中に落ちていく。

そりゃそうだよな、と納得した。皮を切ったとて、筒の直径よりも小さな亀頭では皮をせき止められない。

 

料金の支払い手続きを済ませ(学割適用の上、分割ローン契約)、手術の内容に同意をして、再び施術室に案内をされる。ズボンとパンツを脱いでベッドに上がり、執刀医の先生とご対面。僕は先生と対面するだけだが、先生は僕とムスコと対面をする。三者面談に親を含まない初めての経験(この場合、僕が親の立場)。

 

局所麻酔を行い、ムスコが感覚を失ってからメスが入れられる(当然だ)。手術自体は全く痛くないのだが、麻酔の注射はめちゃくちゃ痛い。違う種類の痛みを前払いしたような感覚。

ムスコの周辺の神経に打つ注射は全部で8本(10本だったかも)。あまりの痛さに半分打ったところで一時中断。

しかし中断して待ったところで残りの箇所に麻酔は効いてこない。諦めて残りの注射に耐える。

 

「どうですか、痛みを感じますか?」と仰向けになった僕に声がかけられる。麻酔が効いていることを確かめるためにムスコが天井に向けてぐいぐいと引っ張り上げられる。ぐいぐい、という表現ほどの高さまで到達しないサイズ感ではあるけれど。

 

ちょっと見てください、と言われ、上体を持ち上げる。ムスコにマジックで2本の線が引かれている。

 

「上の線か下の線か、どちらで切るのかを選んでもらいます。上の線で着る場合、上下運動をさせるだけのたわみが残ります。下の線できる場合、たわみが残りません。最大膨張時に合わせた長さでのカットになります。

下の線の方が切除する皮が多くなるので、手術前にイメージされていた仕上がりに近いと思います。

好みで選んでいただいて構いませんが、日常生活を全体的に快適に過ごすことを考えたら上の線で切除することをお勧めします。」

 

餅は餅屋。最善の結果を得ようと考えるならば、基本的にはその道のプロが言う通りにするべきなのだ。

僕はお勧め通り、上の線を希望した。

 

切って、縫って、包帯をぐるぐる巻きにしておしまい。手術自体はすぐに終わった、はず。正直よく覚えていない。手術以上に会話に夢中だった。助手の方に就職活動の相談をするのに夢中だったのだ。

当時のスケジュールは、説明会が10月、選考が12月の解禁だった。手術を受けたのは大学3年の1月なのでドンピシャのタイミング。しかも助手の方は興味を持っていた業界の大手の企業に就職していた経験があり、やめた理由も含めて、ものすごくたくさんの情報や経験を教えてもらった。

クリニックを出るときに言ったお礼は、手術のお礼だったのか就活相談のお礼だったのかよくわからないくらいだった。

 

これで全てが変わる。男として自信を持てる。女性に対して積極的になれる。彼女ができる。

暗闇を抜け出したムスコと私は、光に照らされた道を歩いていける。

 

手術前の妄想が所詮は妄想でしかないと気がつくのに多くの時間がかからなかった。

彼女はできないし、女性に対して積極的になれないし、男としての自信を持てていない。包茎ではなくなっただけだ(上の線で切ったので座れば普通に被る)。

 

これが変われば全てが変わる。そんなうまい話は用意されていなかった。

これがああだったらこうだったのに。そんなものはいつまで待っても妄想のまま。

就活中に聞いた採用担当者の言葉が今になって頭の中を駆け巡る。「自分が動くしかないんですよ。部屋で寝ている自分のところに美女が告白にやってくることはありませんよね。」

 

何かを変えるのはいつだって行動だ。

包茎ではなくなったのは(一応)、手術を受けたからだ。

行動をしたから結果が変わった。

男として自信を持つために何をした?女性に対して積極的になるために何をした?

一つの行動で全ての結果を変えようなんて虫がよすぎる。行動をしなかったから何も変わらなかったのだ。

 

抜け出したのはムスコの方だけだ。私はまだ、暗闇の中にいる。