いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

安定第一なんですが、御社は私が入社した後の40年も業績は順調でしょうか?

「何よりも安定が大事なんすよ、僕にとっては」

バイト先の大学生が真っ直ぐな目をして言った。

給料は平均的でいいし、やりがいも別にどうでもいい、とも。

 

彼はある企業から内定をもらった。

この春に大学4年生になる。社会人になるのは来春だ。

ルールなんてあってないようなもんだな、と毎年のように思う。

解禁日に内定率50%とか60%とかだもんなぁ…。

ボージョレ・ヌーボーを上回る内定率。解禁日どころか販売期間中に50%も売れてないようなスーパーあるもの。

 

毎年のようにバイト先の大学生のうち数人は4年生になる前に内定をもらっている。

バイトと正社員(面接突破)は求められる能力が違うのだな…とこれも毎年のように。

 

内定をもらい、必要な単位の取得を終え、3年の春休みにして彼は自分の将来(と1年間の自由)を確定させた。

給料は新卒の平均より高く、諸々を引かれた後の手取りは20万円を超えていてる。基本的に残業はない。

地元ではそこそこ有名な会社で、創業以来一度の赤字もないのだとか。

 

羨ましい。

フリーターにとってはもちろんのこと、就活生からも羨ましがられる状況のはずだ。

就活を始めるまで聞いたこともなかった会社から内定をもらうために必死になっている人だっているだろうに。不安定な業績の会社から内定をもらったとしてもそれなりに嬉しいだろうに。

地元で有名な、安定した業績の企業から早々に内定をもらっているのだ。

 

嬉しくないわけじゃないけどさ、ほら、あんまりたくさん食べるとニキビ出来ちゃうでしょ?

太ったら嫌だし、虫歯になったら最悪だし。

都合のいい理由見つけて一斉に持ってこられても困っちゃうんだよね。

俺はバレンタインは要らないイベントだと思ってる。

 

各大学のイベントサークルに1人はいるような、それっぽさを寄せ集めたストリートスナップ切り抜き量産型イケメンのバレンタイン事情。

「羨ましい」に踏みとどまることができるか、「躓いたふりをしてラリアットをくらわせたい」に足を踏み入れるか。人それぞれだ。

 

「内定はもらったけど、まだ迷ってます。」彼の表情は至極真面目だ。

自慢のようには見えないし、三十路のフリーターに対するマウンティングのようにも見えない(上に立とうとしなくてもずっと下にいる)。

ラリアットは不要だ。

 

何に迷う必要があるというのだろうか。

安定が第一なら、内定をもらった企業に入社すればいいと思うのだが。

平均以上の給料、残業なし、創業以来赤字なし。地元で有名。

自分にとっても、親にとっても、なんなら同窓会やら合コンやら、あらゆる場面で胸を張っていられる。

それでもまだ不安定だと感じているのだなんて…もしかして、施錠した後に何度もドアノブをガチャガチャ回して引っ張るタイプ?

 

十分に安定していると思うけど、と疑問を投げかける。彼の返事を聞いて腑に落ちた。

「公務員になりたいんですよ」

そりゃあ…そりゃあ、そりゃあそりゃあそりゃあ、だ。

そりゃあ内定を辞退する可能性も考えるか。

 

悩みの種は、どちらかしか選べないこと。

内定先に結論を伝えるまで2ヶ月の猶予が与えられているものの、その時点では公務員試験の合否は判明しない。

 

入社を決めれば公務員を選べない。

公務員を選べば内定先を選べない。

公務員試験に合格するかどうかはわからない。

 

内定先に入社するのが現時点では最もリスクのない選択だ。

不透明なのは、安定がこの先も続いていくのかどうか、ただ一点。

創業以来(数十年間)黒字を続けているからといって、この先も黒字が続くかどうかはわからない。

「俺が入社した後の四十年も今までみたいに調子がいいのか?」彼にとって気がかりなのはこの点なのだ。

公務員なら40年後も今まで通り存続している。

 

「安定している」というのは「バランスが取れている」ということだ。

引受けるリスクと期待するリターンの釣り合いが取れている状態。

リターンを獲得するためには、引き受けなければならないリスクがあるということだ。

 

将来的な業績不振や倒産の可能性を引受けるか、公務員試験不合格や就活再開の可能性を引受けるか。

 

知ったこっちゃないけどさ。

市町村の統廃合とか業務への民間委託とかで仕事を失う可能性ってないのかしら?

公務員はこの先も無敵?

なんでもいいけど。

どっちにしても知ったこっちゃないからさ。

真面目に聞いてるこっちはフリーターだ。「お前に頷かれてもな」のリスクだけがあまりにも大きい。