いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

同じところでこうも違う

退屈さとは無縁だった。出勤から退勤までずっとお客さんがひっきりなしにやってくる。
大学生のときにアルバイトしていたスーパーはものすごく忙しかった。

レジ、レジ、レジレジレジ・・・よくもまぁ働いていたと思う。

学校の近くにあるスーパーだったので、アルバイトをしている学生のほとんどが同じ学校だった。学部は違ったけれど、同じ学校に通っているので学力に大きな差はない。

 

花形の学部があるような大学でもなかったので、基本的には同程度の学力で、会話をしていて自分だけが置き去りにされるということはなかった。

ただ、英語に関しては置き去りにされた。4年間置き去りにされ続けた。


入学早々にクラス分けをするためのテストを受けた。僕は13クラスあるうちの下から2番目に配属された。

 

僕の配属されたクラスには、スポーツ推薦か指定校推薦で入ってきた人しかいなかった。当然僕もその1人。
指定校推薦は小論文を提出するだけだったので、英語ができなくてもなんら問題がなかったのだ。


通っていた高校内で指定校の推薦がもらえる程度の学力はあったが、一般受験で合格するほどの学力はなかったのだ。

 

ワタシ ニホンゴ ワカリマセン

 

この言葉を使う外国人の日本語理解度と同程度の英語理解度だ。

 

アイ キャン ノット スピーク イングリッシュ

 

日本人でいうところのこの表現。

 

全くわからないわけではないけど、おそらくあなたの期待には応えられませんよ、くらいのニュアンス。

 

その日は8番レジに先輩、7番レジに僕が入っていた。店の手前から奥に向かって、10から1番までレジが並んでいる。僕が先輩の背中を見る並びになる。

 

出勤は昼の12時から。そこから3時頃までは延々とレジ打ちが続く。気持ちが折れてしまうのでお客さんの並び具合はチェックしない。

 

お金を受け皿に向けて投げる人。小さく折りたたんだお札をそのまま渡してくる人。自分の都合で出す端数なのに、あと6円あげる、と言う人。


目の荒いヤスリで頬を擦られるような気分。傷が癒えるより先にもうひと擦り、もうふた擦り。

等価交換になっているのは商品と金額だけで、店員と一部の客の態度には釣り合いが見られない。
偉そうにされる分のお金を店員側はいつもらったのだろう?王様プレイ、嬢王様プレイのオプション料金はいつ支払われたのだろう。

 

一部の客の態度と釣り合いを取るために、こちらも同程度の態度で接客をしたならば、即座にクレーム。店長だせコラ。

クレームの形を取るだけで、王様プレイ、嬢王様プレイが可能になるだなんて、あってはならないことだ。オプションはオプションであり、追加料金を払った者だけが享受できるものだ。

 

追加の支払いが嫌ならば、それが基本プレイに含まれている高級店へ行けよ、と思う。激安が売りのスーパーに店員の態度まで要求するのは身勝手すぎるのでは?

 

至れり尽くせりってのは、高額な基本料金に技術料が含まれている。
技術としてのサービスに対価を支払っていないんだから、気持ちのいい接客をしてもらえると思っている方がどうかしていると思ってしまう。
1000円カットの店にカリスマ美容師はいないですよね?

 

なんとか耐えきり、先輩と揃って休憩に入る。1時間後にレジに戻り、接客を再開。
4時から5時にかけては比較的緩やかで、しばしばお客さんの列が途切れる。僕は一つ前のレジの先輩の様子をぼんやりと眺めていた。

 

先輩は外国人のお客さんの接客をしていた。商品をスキャンして、清算後の商品を入れる色の違うカゴに移していく。
全てスキャンし終えて、合計金額を伝える。

 

どうやらこの外国人のお客さんは日本語がわからないらしい。困った顔をしていた。
たぶん、ワタシ ニホンゴ ワカリマセン の日本語レベルだろう。先輩はレジのモニターを指差して金額を教えていた。

 

お客さんはお客さんで何かを伝えようとしていた。手にクレジットカードを持っていたので、おそらくはカード払いできますか、というようなことを言っていたのだろう。

残念ながら僕がバイトしていたスーパーは、クレジットカード決済に対応していなかった。現金と商品券しか使えなかった。

 

先輩がお客さんに何やら話しかけている。お客さんはふむふむと頷いている。何を言っていたのかわからないが、身振り手振りでなんとか、って感じではなかった。ちゃんと言葉で説明をしている、という感じだった。

 

なんと言っていたのだろう。

僕ならなんて言うのだろう?

 

買い物カゴをレジに預け、外国人のお客さんは店を出ていった。
数分後に戻って来た。先輩のレジに並び直す。財布から現金を出して支払いを済ませ、笑顔で何かを伝えて帰っていった。

 

口の動きから読み取るに、サンキューかキル・ユーのどちらかだろう。この文脈で後者だとしたら、あの外国人とは友達になれない。

 

閉店後、先輩に夕方の外国人のお客さんとのやりとりについて話を聞かせてもらった。
日本語がわからないこと、カード払いを希望していたところまでは様子を見てなんとなくわかったんですけど、あのあと何を話しかけたんですか、と聞いた。

 

先輩は、
「キャッシュカードはある?あるんだったら大丈夫。店を出てすぐのところに銀行があるから、そこで現金を引き出してまたこのレジに来て。ATMは夕方の5時までだったはずだから、今すぐ行けば間に合うよ。」
という内容のことを英語で伝えたらしい。

 

別れ際に笑顔で言われた一言は、サンキューだったようだ。

 

あのお客さんがもしも僕のレジに来ていたら。

先輩に話を聞くまでずっと考えていたけど、思いついたのは一つだけだった。

 

ディス ストア キャッシュ オンリー

 

同じ大学に通っていてこうも違うかね。

先輩のレジに並んでいたことは、お客さんにとっても僕にとっても幸運だった。