いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

小さじのスプーンは久々すぷーん

閉めっぱなしの押入れから引っ張り出したのだろう。

防虫剤の強い匂い。

上品なコートにそぐわない匂いと不釣り合いな寸胴体型。

 

オーバーサイズが流行だとショップ店員に言われたのだろうか?金は持っていそうだがセンスがまるきりない客として、都合よく買わされた感じが見て取れる。

着崩す、外し、あえて。

センスのない人間が着ても様になるように考えられた寸法を無視する愚行。デザイナー殺し。

 

ラジオから楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

「料理は下手な人に限って目分量で作ろうとするんですよ。下手な人でも分量と手順を守れば美味しく作れるようにレシピを書いているのに。」

最近出版したレシピ本の売れ行きが好調らしい。いつにも増して雑で庶民的な語り口だ。

手仕事のムラが味わいに変わるのは、どうやら一定のレベルを超えてからの話らしい。

 

どうしても400g丁度でないと納得できない客が量り売りコーナーで揉めている。

「仕事だろ、ちゃんとやれよ」キレる客。

「挽肉ならまだしも豚小間では無理だ」キレる店員。

わからんではないけど、乱暴な主張だなぁ…。

野次馬の群れは店員支持の総意でクレーム客を囲む。

「店員」と「客」という構図の中では正しくないのかもしれないが、店員がキレたことについて、野次馬たちは「キレた」と受け取った。

「逆ギレ」ではなく、「順ギレ」。極めて正常な反応として受け取っている。

 

当事者間では話が付いている、と芸能リポーターが伝えている。

「最低」「女の敵」と不倫した男性芸能人のSNSに誹謗中傷のコメントは殺到する。

別の女性芸能人が不倫を報じられた時には「最低」「奥さんが可哀相」だった。
「最低」は共通しているが、「男の敵」とは言われなかった。

これまでもこれからも男性芸能人のことを「応援しない」ことを続ける人が、絶対に許さない、という主張を続けていく。

 

「才能だけでプレーをしていたんだと思います。」かつて天才ともてはやされたプロ野球選手が当時を回想した。

高校卒業後、鳴り物入りでプロの世界に飛び込んだ彼は、一年目からレギュラーの座を勝ち取り、新人王に輝いた。

人気・実力を兼ね備えた彼に2年目以降も残ったのは人気だけ。成績は下降を続け、4年目のシーズンオフに戦力外通告をされる。人気すらも失っていた。

トライアウトを経て入団したチームで過ごす3年目のシーズン。ついに成績が上向く。

気が遠くなるほどの基礎練習を積み重ね、ついに実力を取り戻した。

いくらセンスで加点しても、基礎で点が取れなければ合計点で上位に食い込めない。

オフシーズンに帰省した際、実家のコタツでフィギアスケートの中継を見ていてハッとさせられた。

以降、練習に対する意識が変化したらしい。

 

珍しくおかわりを要求されて戸惑ってしまう。2人分しか作っていないので鍋の中に余りはない。

「一口食べちゃったけど、もし良かったら…」

「いいの?」と確認されたが、返事はしない。こちらの返事を待たずに器を自分の方に引き寄せていたし、こちらの返事を待たずに食べ始めていたから。

 

なんとなく決まったそれぞれの役割。なんとなく担当することになった夕飯の支度。

作ることはただの役割でしかない。日々の献立はなんとなくお互いの健康を気遣って決めているだけだ。

作ることにやりがいはないし、空になった相手の器を見ても喜びを感じることはない。

戸惑ってしまったのは、おかわりを求められたときに、自分の中に喜びが湧いてきたからだ。

 

レシピ本は駅前の本屋で買ったものだ。売れ筋なのだろう、平積み展開されていた。

いつものスーパーで揃えたいつもの食材を使って、書いてある通りに作ってみる。いつもは見ないレシピ本、いつもはあまり気にしない手順と分量。小さじ用の計量スプーンを使ったのは久しぶりのことだ。

 

基本に忠実に作ったくらいで味に大きな違いがでるのだろうか?

作った自分には、相手の反応の違いを実感できるほどの手応えがない。

喜びのあとに疑問が湧いてきたが、今度は戸惑ったりしない。

代わりに、もう少し食べてから譲ればよかった、そう思った。