いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

月に照らされ、半歩進んで。

お集まりいただき誠にありがとうございます。

皆さんのおかげで先月は素晴らしい生誕祭を行うことができました。改めてお礼申し上げます。

 

生誕祭実行委員会の皆さんにお声がけしたのは、どうしてもお伝えしなければならない事実が一つ判明したからです。

 

えー、そうですね。

来たるべき時が来た、という感じでしょうか。

 

 

姫野マリンが週刊サタデーに写真を撮られました。今週末発売の最新号に掲載されるようです。

 

情報ソースはネットの掲示板への書き込みですが、書き込み主は過去にアイドルのスキャンダル情報を何度も事前リークしている人物です。

 

実際に発売されるまではわかりませんが、信憑性はかなり高いと思います。

 

 

相手は俳優の三上悠太。

三上のマンションに姫野が出入りしている様子を撮られたようです。頻繁に出入りしているらしく、服装の違う写真が複数枚掲載されるようです。

 

えぇ、あの三上です。

 

そうです、あの時の三上と同一人物です。

 

 

実行委員の皆さんは覚えているでしょうか?

 

…まぁ、そうですよね。

古参の方は忘れることなんて出来ないですよね。えぇ。

 

ファン歴の浅い方でもある程度は理解していると思いますが、今回の件とは切っても切れない出来事なので、改めて概要を説明させていただきます。

 

 

姫野は3期生としてグループに加入しました。

加入直後から選抜メンバーに選ばれた、いわゆる運営のごり押しです。

 

端正な顔立ち、一度も染めたことのない黒髪、照れながらも振りがくればぶりっこをしてくれる愛嬌、垢抜けない私服、毛玉のできたなんかダサいセーター。

 

彼女はアイドルファンのツボを全て抑えていました。1期生を推しているファンですら、悔しいけど姫野はグループに欠かせない、そう思っていたくらいです。

運営ゴリ押しメンバーとしては異例のアンチの少なさでした。

 

そんな彼女の最初の熱愛疑惑は5年前、グループに加入して2年目のことです。

 

相手は俳優の三上悠太。そうです、今回写真を撮られた相手と同じ人物です。

 

当時の姫野は17歳でした。

 

 

三上は姫野が初めて出演した舞台の共演者でした。劇中では高校のクラスメイトの設定。

舞台上の2人はまるで本物の恋人のようで、観劇したファンはこぞって姫野の演技を絶賛しました。

 

まぁ、後の舞台やドラマでの姫野の演技力を見れば一目瞭然なのですが。

あの時の演技はつまり、三上に恋するただの姫野でした。

 

演技じゃないから演技力があるように見えたのです。

 

舞台を終えて程なく、2人は本当の恋人となりました。

 

 

当時の姫野はまだグループのファン以外からの認知はなく、世間的にはほとんど無名の存在でした。

少しずつテレビドラマに出演し始めていた三上の方が格上の存在。

 

この件はメディアに取り上げられることのない熱愛疑惑だったので、ネットの情報をもとに双方のファンが騒いだだけで運営からの実質的なペナルティは何もありませんでした。

 

売り出し中だった三上サイドはこの件を完全にスルー。姫野は有料会員向けのメールの中で否定。

全てはなかったことにされました。

 

姫野のブログには三上の女性ファンからサーバーがダウンするくらい大量の批判コメントが書き込まれましたが…。まぁ年に数回しか更新されないブログなので、姫野本人には何もダメージはなかったと思います。

 

批判コメントに目を通して気が滅入ってしまったのは当の本人ではなく、我々のファンの方でしょうね。

 

 

あれから5年ですか…。

 

5年が経っても姫野は三上と…。

 

 

皆さんそれぞれに思うところはあるかと思います。

応援のスタンスはそれぞれ違うでしょうし、応援してきた期間も違うでしょう。もちろん、自分の給料のどれくらいを姫野を応援するために使ってきたのか、という部分でも。

 

 

どうでしょう、みなさん。我々ファンは一枚岩になりませんか?

 

少なくとも生誕祭実行委員の我々は、この件について姫野を「一切責めない」ことで団結しませんか?

 

もう少しの辛抱なんです。

 

 

いえ、格好つけているわけではありません。

 

姫野のことを責めたい気持ちはあります。5年前もの間、関係がずっと続いていたのかと考えると裏切られたという気持ちも湧いてきます。一度目を許した我々ファンの甘さに姫野が味をしめていたと考えると後悔しかありません。

 

ですが、もう少しなのです。

 

もう少しの辛抱なのです。

 

もう少し辛抱すれば、三上は遥か遠くの空に浮かぶ星屑となります。

 

 

 

覚えていますか?

5年前の舞台での印象的な1シーンを。

 

三上のマンションの前まで来た姫野が、3階にある自室のベランダから顔を出した三上と会話をするシーンです。

そのシーンの終盤、姫野は三上に向けてこう言いました。

 

「月が綺麗だね」

 

これは物語の序盤、二人が授業を受けるシーンで登場した夏目漱石のエピソードを引用した告白です。

気持ちを伝えた姫野は、3階のベランダにいる三上から照れて視線を少し上に外します。

外した視線の先には雨上がりの澄んだ空に浮かぶ綺麗な満月。

 

つられて上を見る姫野。

不意に訪れる沈黙。

視線を月から戻せない姫野の姿を見て、三上はこれが告白の言葉だと気が付きます。

 

 

みなさん、思い出しましたか?

印象的なシーンですよね。

 

「え、それって…」と三上が言いかけたとき、告白に気がつかれた姫野がテンパって「か、形もいいよね!」と、とんちんかんなことを言うのですが、それがすごく可愛かった。

 

ものすごく可愛い。

 

わたし今脳内で再生してものすごくキュンキュンしています。

 

 

いいですよね、お互いに意識しているけどただの友達の二人が、半歩先に進む瞬間の美しさとじれったさというものは。

一歩じゃないのが良いんですよね。半歩しか進めないところが甘酸っぱい。

 

 

まぁまぁ、そう焦らないでください。

これが今回の肝なんです。

 

なぜ、この話をしたのか。

なぜ、姫野を許そうと思っているのか。

それはですね…。

 

今週末の週刊サタデーが発売されれば、三上は実質的に芸能界を去ることになるからです。

 

語学留学とか演技の勉強とか、それらしい理由をつけてフェードアウトすることになるのではないでしょうか。

 

5年前とは状況が違いますからね。

熱愛報道を無かったことにするのは不可能でしょう。

 

 

活躍の場をイケメン若手俳優の寄せ集めのような舞台から広げられない三上に対して、姫野は今やアイドルファンのみならず一般認知もされている人気アイドルグループのエースです。

雑誌、CM、テレビドラマの主演と着実に活躍の場を広げている彼女にはさらに、主演映画の公開も控えています。

原作は本屋大賞を受賞したミステリー小説。来春の全国上映が決定しています。

 

しかし姫野はまだ同性からの支持が十分ではありません。彼女の熱烈な支持者は9割以上が男性です。

21歳の彼女の恋愛に対して肯定的なファンはそう多くはないでしょう。

 

だとすれば、無かったことにされるのは三上の存在。 

 

 

華やかな芸能界の一線で、汚い大人の世界を嫌というほど見てきた姫野でも、5年もの間一途に思い出を積み重ねてきた三上が芸能界を去ることになれば、ショックで塞ぎ込んでしまうでしょう。

三上が海外に連れ出されてしまえば、会うことすら叶わない。

 

決まっている仕事の多さから、自身がすぐに芸能界を去ることが許されないと知っている姫野は心を空っぽにして日々仕事の現場に足を運び続けることになるはずです。

心を空っぽにしなければ自分で自分を支えられない。

 

そんな気持ちの姫野が仕事から帰ってきてすることといえば何でしょうか?

 

暴飲暴食でしょうか?

部屋の掃除でしょうか?

 

いいえ、空を見上げることです。

 

遠く異国で暮らすことになった三上を想って空を見上げます。

飽きることなくいつまでも。いえ、それ以外には心を空っぽにした自分を支える方法が何もないとでもいうように。

 

 

 

まだわかりませんか?

 

空を見上げる機会が増えるということは、ベランダに姿を見せる機会が増えるということです。

 

皆さん、行きましょう。会いに行きましょう。

塞ぎ込んでいる姫野を支えて上げましょうよ。

 

 

「いや…」とか「でも…」とか、ちょっと待ってくださいよ。

格好つけているのは皆さんのほうじゃないですか。

この場でそういう見栄や嘘は必要ないと思いませんか?

 

本当は知っているのになんでそうやって格好をつけるんですか?

生誕祭の実行委員になるほどの能動的なファンだ。

知らないわけがないじゃないですか。

 

私は知っていますよ。

一階がオリジン弁当のマンションの向かいにある、3階建ての低層マンションに姫野が住んでいるということを。

3階の右端の部屋308号室、事務所が用意した家賃17万8千円の1ldkに…。

 

私は見逃しませんよ。みなさんが口に出さずとも、一瞬「え、オリジン?違っ…」と反応をしたことを。

皆さんご存知のように姫野のマンションの向かいはオリジン弁当ではなく、ほっともっとです。

 

 

今は格好をつける時期ではありません。我々が今すべきことは姫野を支えることです。

空っぽの心でベランダに出てきた姫野が空を見上げるのをそっと見守りましょう。

 

毎日毎日、見守りましょう。

 

毎日毎日毎日、ただ側で見守り続けましょう。

 

 

いつの日か、姫野の空っぽの心は潤いを求め始めます。

潤いが空の向こうにはないと知り、オアシスを求め目線を漂わせ始めるでしょう。

 

外灯、外灯、外灯。

 

その中に混ざってひときわ優しい明かりがひとつ。

導かれるように月明かりをたどっていけば、そこはマンションの前。

見守り続けた我々生誕祭実行委員の面々を見て、姫野は空っぽの心の中に温かな何かを感じるはずです。

 

瞳に潤みを認めたときがその時です。

涙がこぼれないよう、姫野に上を向かせるためにあの言葉を発するのです。

 

「月が綺麗ですね」

 

我々はずっと見つめるのです。

姫野の反応がどれだけ気になったとしても、姫野が自らの意思でこの先のアイドル人生を我々とともに歩む決意を固めるまでは、ただ黙って月を見つめるのです。

 

「え、それって…」

 

沈黙を破るのがこの言葉だったなら、我々が続ける言葉はただひとつ。

 

「か、形もいいよね!」

 

 

 

えぇ。全てが想定通り進んでも、我々と姫野の関係は半歩しか進めません。

全てが想定通りだとしても一歩は進めません。

 

しかしそれがなんだというのでしょう。

むしろそれでいいんです。

一歩進んでしまったら、遅かれ早かれ週刊誌に写真を撮られてしまう。

 

我々が残りの半歩を進めなければ、姫野は笑顔でいられます。

我々が残りの半歩を進めてしまえば、姫野は再び愛する人を、つまりは我々を失うことになる。

 

…姫野には笑顔がよく似合う。我々は半歩で止まりましょう。

全員で幸せになる道を選びましょう。

 

 

私からの提案は以上になります。

賛同してくださる方に少々お願いがあります。

 

マンションの前に来るのは終電を過ぎてからにして下さい。

目立たない格好を心がけてください。

応援される姫野が胸を張れるように紳士的な態度を心がけましょう。

ファンの質の高さでもって、姫野の価値を証明するのです。

 

それでは週明けの月曜25時、姫野のマンションの前でお会いしましょう。