いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

デートのようなものを

僕のスマホにまだアラーム以外の役目があった頃、一度だけディズニーランドに女の子と遊びに行ったことがある。

 

開園から閉園まで、丸一日を一緒に過ごした。

 

大学3年の夏、同い年の女の子とディズニーランドに行った。最寄りの駅で待ち合わせをして、舞浜駅まで電車で向かった。

 

夢の国にはもう既に足を踏み入れていた。入国のゲートはアパートから徒歩5分、小田急線の改札口にあったのだ。

 

ディズニーランド自体、小学校の時に一度行ったきりだった。プーさんのハニーハントが出来たばかりの時だった。10年ぶり2度目。母校の甲子園出場のようなお久しぶり感。

 

ディズニーランドは全くの未経験ではない。だけど、エスコートするには知らないことが多すぎる。

チュロスとキャラメルポップコーン。あとはファストパス。

そんなもんですかね、知っていることは。あと言葉としては、隠れミッキー。情報も経験もあまりにも不足していた。

 

僕はデートをしたことがなかった。大学2年の時に開かれた高校の同窓会の後、参加者全員で夜の砂浜に行ったことがある。そのときの謎のノリを集団デートと呼べないのなら、僕には一切のデート経験がなかった。

 

このデート(のようなもの)だって、女の子の方が全部根回しをしてくれた。僕がしたことといえば、並べ終わったドミノの1枚目をそっと倒すことだけだった。

 

一緒に行ったら楽しそう、って言われて、一緒に行く?と聞いただけ。

 

ディズニーランドの入場ゲート(本当の入国)を通過した直後、僕は試練を与えられた。夜のメインイベントの抽選があったのだ。沿道で座って見るパレードとは別の、ショーイベント。

 

夢の中に引き戻してくれ!


夢なら覚めてくれ、とは真逆の切なる願い。

 

先に並んでいた人達の抽選の結果は、当落が半々といったところ。僕らの前3組は連続で落選していた。

彼らの背中を見ていれば、落選 = 不運な1日、になることが理解できる。それぞれのペアが、どちらにも責任を押し付けられないモヤモヤを抱えたまま散っていった。

 

抽選機械の画面に「当選」の表示がされた時、助かった、と思った。嬉しさなんて全くなかった。ただただ助かったと思った。

 

当選した時の女の子の、あの嬉しそうな顔が、反対に振れたかもしれないのだ。落選していたらと想像すると、今でもゾッとする。

 

開園から閉園までずっと、どう振る舞えばいいのかわからなかった。楽しもうと思っていたし、一緒に1日過ごせることを嬉しく思っていた。その証拠に、服もサンダルも新調して当日を迎えていた。気合いは十分、というかディズニーランドと彼女に不相応にならないように必死だった。

 

どのアトラクションに乗るかは僕が決めたほうがいいのだろうか。決めてもらったほうがいいのかな?

僕から、次はこのアトラクションに行こうよ、って言い出して、女の子の意見も採用する形にしたほうがいいのだろうか。

それとも、行きたいって言うところを優先して回って、ときどき、こっちの方が楽しそうじゃない?なんて完全な相手任せではない感じにしたほうがいいのかな?

食事とか飲み物はどうすればいいんだ?

 

とかとか。

 

ビッグサンダーマウンテンに乗っても、エレクトリカルパレードを観ても、今の自分の振る舞いは合ってるのかな、と考えてしまった。

 

今日は楽しかったね、って言って欲しかった。

 

自分は今、間違ったことをしていないだろうか。そんなことばかりが頭の中をぐるぐると回っていた。

 

ファストパスの取得情報やアトラクションの待ち時間をサイトで確認しながら、無駄な待ち時間のない効率的な遊び方が出来たのを覚えている。

あの時は、無駄な待ち時間がないことを何よりも価値のあることだと考えていた。


不安な気持ちから逃れるには、順調に進んでいると思い込むしかなく、その根拠として時間を上手に使えているという手応えが欲しかった。

 

今なら言える。無駄な待ち時間を過ごしているときに2人の間に流れる空気こそが、相性ってやつだと。

 

すみません、見栄を張ってしまいました…。

 

経験値は、この数年全く上積みされていないのです。

 

今ディズニーランドに行っても、無駄な待ち時間をなくすことに全力を尽くすだろう。不安から逃れる他の方法を、僕は今も知らないままだ。

 

当選した夜のイベントは、ものすごく楽しかった。なんのこっちゃわからないまま参加した僕でさえ、気が付けば歓声を上げ、飛び跳ねていた。

 

朝の抽選で当選したこと、足元がサンダルだったことに、心から安堵した。彼女の笑顔、そして大量の水によるびしょびしょの足元。

 

翌日届いたメールには、楽しかった、また一緒に行こうね、という嬉しい言葉が綴られていた。


でも心のどこかでは、それは叶わないだろう、と思っていた。

 

舞浜駅からの帰りの電車の中で、彼女は眠っていた。無理はない、真夏に朝から晩まで屋外で過ごしたのだ。僕だって気が張っていなければ、起きてはいられなかった。

 

うとうとし始めてから、深い眠りに落ちるまで、多くの時間はかからなかった。
すっと落ちていった。どこにも何にも触れることなく。

 

目が醒めるまでずっと、彼女の頭は左に傾いていた。僕はそれを視界の端に捉えたまま、右隣に座っていた。とても悲しかった。


無意識の時にそうならば、それが答えなのだろう。

 

とっくに夢から醒めていたのだ。


入国ゲートは、アパートから徒歩5分の場所ではなかった。小田急線の改札ではなかった。

 

1デーパスポートを見せた、あの場所だった。