いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

無視すれば乗れた電車を横目に。

交差点を渡り終えたところで、ポケットからスマートフォンを取り出す。

時刻は15時40分。

いつもより2分遅い。間に合うだろうか?

 

交差点から駅まではおよそ3分。電車の到着は15時43分。

電車の到着のタイミングによっては間に合わない。

42分後半に来て43分丁度には出発するせっかちAパターンなのか、出発する頃には44分になっているのんびりBパターンなのか。

せっかちAパターンなら間に合わない。バイトの遅刻が決定する。

 

視界の端に駅を捉える。改札から人が流れ出てくる様子はない。スマートフォンが表示する時刻は15時42分。あ、43分に変わった。

のんびりBパターンの可能性が高い。これならバイトに遅刻せずに済むみそうだ。

 

スマートフォンをかざして改札を通過する。最近モバイルSuicaを使い始めた。

モバイルSuicaの便利さを日々実感しながら、電池切れに備えて念の為にカードのSuicaを持ち歩き続けていることに戸惑いというか、愚かさというか、なんとも言えない本末転倒感というか、もやもやっとしたものを感じている。

ハイテクの「万が一」に備えてアナログを常備しておくって何なんだろうな、と。

 

モバイルSuicaのピピッに続いて踏切のカンカンカン。ドンピシャのタイミングだ。

 

「すみません」

声のした方向を見ると外国人女性が立っている。ブロンドのロングヘアがよく似合っている。北欧系のきれいなお顔立ち。

美人だからって訳ではないが(いや、本当に)、無視をせず、一応立ち止まる。電車はまだホームに到着してはいない。

 

「あの、私ここ出たいんですけど…」

 

パスケースを僕に見せる。

 

「さっき入ったんですけど、やっぱり出ようと思って。」

 

ホームの端に電車の姿が見えた。

 

「入場しただけってことですか?」僕は質問する。

 

「そう。さっき入って...」

 

「そしたら、反対側のホームの改札口に駅員室があるので、そこで駅員さんに出たいって伝えれば出られると思いますよ。」

 

電車は停車寸前だ。

 

「それは知っているんですけど...」

 

はぁ?

 

「足が痛くて反対まで歩いていけない。」

 

はぁぁぁぁぁ?????

面倒くさい。電車もう来てる。バイト遅れちゃう。

面倒くさい。面倒くさい。面倒くさい。面倒くさい。面倒くさい。

 

電車のドアが開く。開いたドアから人が流れ出てくる。

 

「本当に?」とは言えなかった。

「急いでいるので」と言ってその場を離れるには関わりすぎた。

 

相手が美人だったからなのか、根が優しい良い子だからなのか(もしかして?)、口をついて出た言葉は「あぁ、じゃあ、駅員さん呼んできますね。」だった。言葉の親切感と声音や表情が一致していないのはご愛嬌。

降車客の流れに逆行し、乗るはずだった電車を横目に、駅員室に向かう。

駅員さんに事情を説明し、反対側の改札口に向かってもらった。

 

女性の顔を思い出す(美人だったから、とかじゃなくて)。「足が痛くて反対まで歩いていけない」と言ったときの顔を。

なんというか、これで断ったら僕が加害者にされてしまう、と思った。

「え、何。私のこと見捨てるんですか?」女性の表情がそんな言葉を発しているように感じた。

 

「困っている人がいるのに助けないんだー」困っている人に直接言われるなんともいえない気持ちの悪さ、収まりの悪さ。

急いでいるから、と断りを入れてその場を離れることの後味の悪さ。

 

せめて本当に足を痛めていてくれと思ったり、痛めてないほうが良いと思ったり、完全な嘘だとしたら腹立つからやっぱ靴擦れくらいは出来ていてくれと思ったり。

ちょうど良い着地点が見つからない。女性が無事に改札の外に出られて良かったな、なんて気持ちには一切ならないし。

 

バイトには10分遅れた。「電車に乗り遅れました、すみません」と謝る。

細かい事情を説明してあーだこーだと盛り上がれる人間関係を、この日のメンバーとは築けていなかった。

まともに謝ることは不服だった。