いわにし日記

「いわにし」の取るに足らない日常や思いつき

こうなるとそれは最悪のシナリオ

冬服のクリーニングが仕上がらない。お店に持ち込んだのは4月の下旬だ。

最初の仕上がり予定日は5月31日だった。6月に入り店に受け取りに行くと、まだ仕上がっていないとのこと。新たな予定日は7月10日になった。

対応してくれたお婆さん(店員)は「私が責任を持って仕上げるからね」と言った。

 

7月16日、再び受け取りに向かった。「こんにちは」と店に入っていくと、受付のカウンターにはあのときのお婆さん。

僕の顔を見るなりスイッチが入った。

オンとオフを使い分けるのは大人のお作法。

 

「あぁ、この間の、ね、そうよね、そうよね。私、ね、この間、あたしあなたに受け取り日の変更をお願いして、ね。」

 

大きな身振り手振り。ババア特有の距離の近さ。

 

「ね、受け取りを7月過ぎまで延ばしてもいいよ、って言ってくれて。ね。あのー、いわにしさんよね。知り合いの他のいわにしさんと勘違いしちゃったわ、って言って。ほら、これ。」

 

そう言ってお婆さんは一着の服を僕に見せた。胸ポケットのところにつけられた識別用のネームタグには「いわにし」と書かれていた(それを見せるなら前回だったんじゃないの?)。

婦人服だった。

 

 

「はぁ…。7月過ぎてからでもいいよ、って言ってもらえて、私それで安心しちゃったのね。あぁよかった、って思ったらもう頭の中から抜け落ちちゃって。」

 

案の定というかなんというか、僕が預けた服はまだ手付かずのままらしい。

 

「私、成人した孫がいるの。」

 

提供される謎の情報。

 

「今までこんなことなかったのよ。私どうしちゃったのかしら。」

 

加齢に伴う記憶力の低下と初歩的な油断でしょうか?

 

「私、もう決めたわ。あなたが帰った後すぐに取り掛かる。新しい予定日なんだけど、そうねぇ…。切りのいいところにしましょう。1週間後なんて中途半端なこと言わないわ。」

 

お婆さんの決意に合わせて、僕の心の中ではドラムロールが流れ始める。

 

ドゥルルルルルルルル…ドゥン

 

「末日にするわ。7月31日。私あなたが帰った後すぐに取り掛かるから。今度こそ安心して。」

 

おっ、おぅ…。

2週間後…。

すぐに取り掛かるなら1週間後でよくないか…。

 

8月に入ったら受け取りに来ることを伝えて店を出る。

願わくば、次回も普通に手付かずのままでいてほしい。夏を越し、秋も深まり、朝晩に限らず寒さを感じる頃に受け取ることができたら最高だ。

心の何処かで、この店をクローゼット代わりに使ってやろうと考える意地の悪い自分が存在することに、僕は気付いてしまっている。

こうなると次回ちゃんと受け取れるのが最悪のシナリオだ。8月に冬物のコートを持ち帰るなんて絶対に嫌。グレーのTシャツを脇汗でビチョビチョにしながらコートを持ち歩くなんて絶対に嫌。

 

お婆さんが同じ過ちを繰り返しますように。